Standard
MCAP-CR
last update April 3rd, 2010
標準型 並列配置型小部屋構造スピーカーシステム(Standard MCAP-CR)
Standard Multiple-Chamber Aligned in Parallel Cavity Resonator (Standard MCAP-CR)
目次
1.  はじめに
2. 標準型MCAP-CR方式の特徴
3. スピーカーキャビネットの分類
4. 標準型MCAP-CR方式の動作原理
シングルバスレフの動作原理
マルチバスレフからMCAPへ
5. 製作例

6. 標準型MCAP-CRの設計における注意点

7. よくある質問(Frequently Asked Questions)

8. 付録
技 術文書 Technical Documents (English)
計算式の 詳 細(日本語PDF) Calculation Details (PDF in English)
概念につ いて(英語PDF) Concept of MCAP Cavity Resonator (PDF in English)
MCAP-CR型スピーカー システムの 簡易計算方法(日本語PDF) Simpler Method to Estimate Characteristic Frequencies of MCAP Cavity Resonator (PDF in English)
MCAP-CR型共振 周波数簡易計算シート
(Microsoft Excelファイル)


標準型  MCAP-CRシ ステムの製作例-2     (8cmフルレンジを使用した小型システム)
標準型 MCAP-CRシステムの製作例-3、4 (13cmフルレンジを使用した小型、中型システム:ミューズの方舟2008で発表)
標準型 MCAP-CRシステムの製作例-5     (13cm励磁型高級フルレンジを使用したシステム)
標準型 MCAP-CRシステムの製作例-6  (13cmフルレンジを使用したシステム)
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1. はじめに


 MCAP-CR型スピーカーエンクロージャーは、比較的小型でありながら超低音を再生することを目的として開発したものである。2010年4月現在で は、3インチ〜5インチドライバーを使用して約30Hzまでを再生するシステムを製作している。

 MCAP-CR型は、多自由度型バスレフとして今迄に存在しなかった方式だったので、2007年に特許を出願し、2008年からウェブで詳細情報を公開 してきた。バスレフ型の拡張方式として国内外に徐々に認知されてきており、特許の出願についても異議のを受けていないので、2010年2月に正式に審査請 求の手続きを行った。但し、非商用の利用は自由である。

 MCAP-CR型は、考えられる多自由度バスレフの中で恐らく最も合理的で実用的なシステムである。標準型については、既に、簡易計算方法を提案してお り、実用的には問題のない程度に共振周波数を推定できるので、誰でも意図した通りのシステムを設計・製作することができる。但し、厳密な計算のためには、 固有値解法が必要になる。固有値の計算は、自由度が増せば増すほど困難になる。このため、固有値(または共振周波数)は簡易的に推定するのが実用的であろ う。たとえ、共振周波数を厳密に計算できないアプリケーションであっても、合理的に推定すれば、科学的なアプローチを外していることにはならない。この点 が、証明されていない謎の方式とは異っている。

 MCAP-CR型の基本構造は、箱をダクトで繫ぐだけなので、四角い箱を仕切ったり、ペットボトルを繫げたりすることにより、容易にシステムを実現する ことが可能である。このように、この方式の特徴を実験によって確かめることは容易である。

 音の良否、または、好き嫌いは、主にスピーカーユニットで決まるので、MCAP-CRを使用したからと云って全てを解決出来るわけではない。しかし、応 用範囲が広く、音造りがしやすい点は有利であると考える。

 自分自身が音響の専門家ではないので、専門用語はなるべく使わないようにしている。専門用語を多用すると用語が先走りして本質が見えなくなると思う。こ のため、自分は、一般の理工学用語は使用するが、音響の専門用語は殆ど使用していない。

  ここで書いている内容は、純工学的なアプローチが殆どである。本質的に嘘ではないことと、実用性とを最重要視しており、厳密な証明などはしていない。しか し、読者が疑問を持った場合には、誤りの有無を調べられるよう一般的な物理学や機械工学を知っている人なら初歩的な式を使っているので、理論に疑問に思っ た場合は、よく検討し、誤りは指摘するようお願い申し上げます。


  標準型MCAP-CRの効果については、簡単に実験できることなので、信じられない人は、実験してみてください。実際の作例を公開する場を設けることは 検討していますが、職業ではないので、試聴室は持っていません。但し、狭い自宅で、または、場所を提供して頂ければ、実際にお聞かせすることは可能です。電子メールにてご連絡ください



2. MCAP-CR方式の特徴


 MCAP-CR方式とは、並列配置型小部屋構造(Multiple-Chamber Alligned in Parallel)バスレフ式と名付けたスピーカーキャビネットの様式で、簡単に云うと、スピーカーユニットを取付ける主空気室に、並列に副空気室を複数 並べた構 造である。この方式では、共振周波数をいくつでも増やすことができるようになり、最低音域を延ばすのと同時に、低音域のレベルを持ち上げることが可能と なった。

 構造は、上手に設計すれば、バックロードホーンよりも製作が容易になる。標準型のMCAP-CRについては、固有値を求めるための基礎式と、簡易計算推 定法を提案しているので、詳細は、技術文書を参照頂きたい。

 MCAP-CR方式には下記のような特徴がある。

(音の特徴)
  • スピーカーユニットのf0以下の周波数を再生することができる。
  • バックロードホーンや共鳴管型システムに比べると小型に設計できるが、再生周波数の最低域を伸ばすことは、比較的容易である (2010年4月現在ま での製作例では、3インチ〜5インチのドライバーを使用した場合の再生下限 は30Hz前後までである)。
  • スピーカーユニットへの負荷は共振周波数にのみ強くかかるので、増幅できる周波数は中低域だけであり、中高域への影 響はあまりな い (バスレフと 同様)。
  • 比較的強力なウーファーユニットやフルレンジユニットと相性がよい。非力なユニットも使用できるが、低域を欲張らないほうが良 い。しか し、強力でハイ上がりになっているフルレンジユニットでは、全体としてはフラットになりにくい(中域に負荷がかからないので、中弛みになる場合がある)。
  • バックロードホーンとも共鳴管型とも、音の傾向が異り、音はバスレフに近い。低音側の再生周波数限界はバックロード ホーンよりも 伸ばしやすい が、中低域の音の厚みはバックロードホーンよりも出しにくい。

(MCAP-CRの定義)
  • スピーカーユニットを取付ける主空気室にダクトを介して複数の副空気室を並列に接続する。
  • 副空気室のうち少くとも1つ以上は、外部に開放したダクトを持つ。
(構造の特徴)
  • 副空気室のレイアウトを変えることにより、トールボーイ型、幅が狭くて奥行きの深い形状、奥行きが短く、幅が広い形 状など、形状 を自由に設計 できる。
  • 各部屋の仕切りが補強を兼ねるので、他のどの構造と比べても特に強力にすることができる。厚い板を無理に使ったり、 補強の板を取 付ける必要が な い。

(設計のポイント)
設計のポイントについては、設計諸元の目安の項に記す。

(使いこなし)
  • しっかりと設置することが必要。安定した形状に設計し、3点接地することが理想的。底面の面積が十分にとれない場合は、4点接地 とし、うち1点はネジなどの調整式にすると良い。
  • 超強力なフルレンジユニット(FostexのSuper以上)を使用する場合は、中高域が相対的に高くなりすぎる場 合がある。こ の場合は、 トーンコントロールで低音を持ち上げると良い。FE108Sを使用した例では、低域の音圧はやや寂しい感じであったが、トーンコントロールを使用すること で、改善できた。元々かなり低い音域を再生するように設計するので、コーンの空振りに終わることはなく、トーンコントロールを使用すれば最低域にも負荷を かけることができる。
  • 最適のスピーカーユニットは、磁気回路が強力でありながら、中高域のレベルが高過ぎないものである。 TechnicsのF20シ リーズが最適と 推定するが、現在入手はほぼ不可能となっている。入手可能なユニットで、適していると推定できるものは、Fostexでは、FE83En、 FE103En、 FE166En等と推定する。また、 Tangbandでは、3インチシリーズは概ね強力で、どれも推奨できる。特にW3-316A(B)は、コストパフォーマンスが抜群なのでお勧めできる。 Tangbandを使用する場合はダイキャストフレームのものを選択したほうが良い。また、Feastrexのフルレンジは、高価だが、バランスが良く、 MCAP-CRで力を発揮することが出来る。
  • 最低音域の音圧が十分に上がらない場合は、大気開放側のダクトのいくつかを塞いでみると良い。
  • 吸音材はある程度使ったほうが良い。しかし、使いすぎは良くない。吸音材は、スポンジやウレタンフォーム等が入手し やすく固定も しやすいので 良いと思う。固定しなければ、ダクトを塞いでしまう可能性がある。実際に、スポンジを使用した限りでは、悪影響は特に感じなかった。
  • アンプの選択には特に注意が必要である。電源のしっかりした半導体アンプが良い。40Hz以下の音域に強い負荷がかかるので、電 源の弱いアンプで低域にパワーを食われると、中域が痩せてしまう。
(欠点)
  • 構造が立体的で複雑になるため、間違えずに組立てるには相当な注意が必要である。設計した本人でさえ、図面と比べな がらでなけれ ば製作するこ とができなかった。製作を外部に委託するためには、三角法の図面だけでなく、等角投影法や斜投影法などの見取図を提示しなければ間違える可能性が高い。
  • 空気室を立体的に配置する場合は、板のカットの要求精度が他の方式と比較して特に高い。カットを依頼する場合は、切 る順番まで指 定しないと、 誤差が問題になる。自信がない場合 は、専門の加工業者に依頼するほうが良い。空気室を同一平面内に配置する場合は、寸法要求精度は、音道幅が一定のバックロードホーン型と同程度の加工精度 で良い。
  • 標準形以外では、プログラムがなければ計算できない。計算式を立てるのにもある程度の専門知識が必要になる。
  • 特に強力で中高域の再生レベルが高いスピーカーユニットを使用する場合は、トーンコントロールの併用が必要になる (設計ノウハウ を 蓄積すれば将 来は不要になるかもしれないが、現在の作例では、フォステクスのFE108S、FF125Kでは、トーンコントロールでBASSを持ち上げたほうが良い結 果となっている。)




3. スピーカーキャビネットの分類


 MCAP構造について説明する前に、既存のキャビネットの方式を楽器になぞらえて下記の4通りに分類してみた。

(1) ラッパ型
 ホーンタイプのキャビネットである。代表的なものは、バックロードホーン型で、管の断面積が出口側で徐々に大きくなり、幅広い周波数に負荷がかかる。

(2) 笛型
 共鳴管型のキャビネットである。管の断面積は一定に近く拡がり方は僅かなところがラッパ型とは異る。笛のように途中に穴を開けると、その部分で圧力が一 部開放されるため、共鳴周波数を 付 加できる。この方式は、2004年のミューズの方舟のイベントで発表している。

(3) 太鼓型
 バスレフ及び密閉型のキャビネットである。密閉型は、皮が叩く1面で、バスレフ型は皮が2面のものに相当する。但し、大型の密閉型は、太鼓型とは云えず 下記の非 楽 器型というべきであろう。ダブルバスレフは、皮が両面と中に皮の仕切りが入っ たものである。MCAP-CRは、太鼓型の動作を拡張したものである。こんな形の太鼓を作ったら面白いが、楽器としての実用性は少いだろう。

(4) 非楽器型
 キャビネットに働きを持たせないものである。背圧を利用しない大型の密閉型、バッフル型、後面開放型等は、振動板の働きのみを期待し、その他はカットす ることを目的としている。
 固有の響きを付けない(ことを目的とした)構造なのでハイファイには一番近いと云える。しかしこの方式は、技術的な興味をそそらないし、実際には構造部 材の音が付く、また、小型化が難しいので必ずしも良いとは云えない。

 (1)〜(3)は、工学的には、源信号に余分な響きを付加することが目的なので、ハイファイと呼べない可能性がある。しかし、実際に音を聞くとこれ らは自然な響きであると感じる。元信号を基にした響きを付加するというのは、楽器自体が基音に倍音を付加して固有の響きを出すことと同じなので、高忠実度 再生という意味では問題が あるものの、結果として音楽を聴くには優れた方式 なのだと思う。



4. 標準型MCAP-CR方式の動作原理


 MCAP-CR方式を説明するためには、バスレフ構造について、触れる必要がある。バスレフはMCAP-CRの元となっている。

シングルバスレフの動作 原理

 図1にバスレフ構造の動作モデルを示す。これは、バスレフダクトの中にある空気の塊を、質点(Mass)とし、キャビネット内の空気をばねとして 扱っ た単振動モデルある。図1の左側が、バスレフ箱の構造であり、空気室(Chamber)にダクトが付いている。このダクトの中の空気の塊が質量を構成する ので、図1の右側のように物理的に簡単なモデルで表すことができる。ばね定数は、ある範囲の中では、一定とみなせるので、この系には固有の振動数がある。 それが、バスレフの共振周波数と呼ばれるものである。
schematics of single bass-reflex speaker
図1 バスレフ構造の動作モデル

 図1においては、Massが一つしかないので、振動の自由度は1であり、固有振動数は一つになる。バスレフ方式の共振周波数は、次式で表される。
    fD = 1/2π*(k/m)1/2
ここで、
    fD : ダクトの共振周波数
    k  :  空気室のダクトに対するばね定数
    m :  ダクトの中の空気の質量(実際は外側の空気も一部含みます)  
詳細については、PDFファイルに載せているので、そちらを参照してください。

 図2にダブルバスレス方式の動作モデルを示す。ダブルバスレフは、バスレフを拡張したもので、質点が2個、空気ばねが2個ある。

schematics of double-bass-reflex system
図2 ダブルバスレフ構造の動作モデル

 図2のモデルは、力学的には連成振動と呼ばれるもので、振動の自 由度が2となり、2つの共振周波数を持たせることができる。ダブルバスレフ型の自由振動の運動方程式はPDFファイルに詳細を載せてあるのでそちら を参照してください。ダブルバスレフであれば、プログラムを書かなくても手計算で、共振周波数を求めることができる。長岡先生の著書にある式はどのように して導かれたのか不明であるが、ここで紹介する方法は、純力学的なものである。

 ダブルバスレフの計算ができれば、空気室を直列に並べることにより、トリプルバスレフ、クオドラプルバスレフ、とどんどん拡張していくことができる。 私 は、最初にクオドラプルバスレフに挑戦した、音は成功とは云えなかった。成功しなかった理由は、単に、成功する までやっていなかっただけである。研究すれば良いものができるのではないかと思う。
 マルチプルバスレフの計算式も別に紹介している。トリプル以上の場合は、共振周波数を求めるために、プログラミングが必要になりるが、プログラムは MCAP-CRと同じものを使用できる。但し、3連以上のマルチプルバスレフは、ユニットの背面の音が出てくるまでに、いくつものダクトを通るので、フィ ルターがかかった音 になるので はないかと思う。

schematics of quadraple-bass-reflex model
図3 クオドラプルバスレフ構造の動作モデル



マルチバスレフから MCAP-CRへ

 MCAP-CRは、上記のマルチバスレフとは異り、副空気室を並列に配置する。これは、ダブルバスレフの第2空気室が複数あることに相当するので、ス ピー ド 感は、ダブルバスレフと同等になると思う。しかし、MCAP-CRではダブルバスレフで中弛みになっていた中低域の帯域を持ち上げることができるので、よ り強力なスピーカーユ ニットを使用することができ、スピード感を稼ぐことが可能である。

 先ず、MCAP-CRの動作原理図を下記に示す。図4では、副空気室が4つだが、原理的には2つ以上であれば良く、無限に繋ぐことができる。
schematics of MCAP

図4 MCAP-CRの動作原理

 この図では、Massが副空気室の数の2倍の8個あるので、スピーカーの振動板を除く共振周波数は最大で8つある(実数とならない根、または、重根もあ り得る)。8つの共振周波数を異った値にするためには、副空気室の容量 や、ダクトのMassを調整し、固有値が虚根や重根を持たないようにする必要がある。ここで、外側に向けた矢印は大気開放を意味するが、全てが大気開放さ れている必要はなく、1つ以上開放されていれば良い。開放されていないダクトは、Massを構成しないので、その分共振周波数は少くなる。計算す るときには、Massを十分に大きな値とすれば、近似値が得られる(Massの大きなダクトの分は0Hzに近い解となる)。

 スピーカーユニットが取付けられた主空気室、その他の副空気室は空気バネとして作用し、それらを繋ぐダクト及び大気に開放されたダクトの中の空気は Mass として作用する。したがって夫々のMassは、相互に作用しながら振動する。独立して振動する訳ではないので注意を要する。

 MCAP-CRの計算式は、複雑になるので、PDFとして別に示 す






5. 製作例
 作例として小型で製作も比較的容易な3インチシステムの標準型 MCAP-CRを紹 介する。ここで紹介するのは、副空気室が3のもので、型式をTR080bとした。TR080bは標準型であるが、同じサイズで標準型は異る構成の2モデル も合わせて紹介する。別のモデルは、型式AIT080a、CBT080aの2機種である。これらは、外観が共通で、空気室の繋ぎ方を変えたものである。標 準型MCAP-CRでも十分複雑なので、AICC-CRは、最高レベルの複雑さと云える。
 どのモデルも、構造材料は15mm厚のサブロク半裁1枚+□15mmの角棒合計2m弱+内径31mmの木管200mm×2本+内径21mmの木管×2本 で製作できる。AICC-CRとCBS-CRについては、MCAP004J及 びMCAP007Jをご参照くだ さい。

 表1にこれら3モデルの諸元を示す。

表1 標準型MCAP-CR, AICC-CR, CBS-CRの諸元
項目 TR080b AIT080a CBT080a 備考
構造 標準型
MCAP-CR
AICC-CR CBS-CR これらは全てMCAP-CRの要件を満たしている。
構造図
空気室 主空気室 2.14 2.14 2.14 単位[L]
第1副空気室 2.27 2.27 2.27 単位[L]
第2副空気室 2.40 2.40 2.40 単位[L]
第3副空気室 2.16 2.16 2.19 単位[L]
ダクト 主〜副1 φ31×101 φ31×101 φ31×101 単位[mm]
主〜副2 φ31×76 φ31×76 φ31×76 単位[mm]
主〜副3 φ31×56 φ31×56 -
単位[mm]
副1〜副2 - φ31×26 -
単位[mm]
副2〜副3 - φ31×26 φ31×26 単位[mm]
副3〜副1 - φ31×26 φ31×26 単位[mm]
副1〜大気 φ21×72 φ21×72 φ21×72 単位[mm]
副2〜大気 φ21×102 φ21×102 φ21×72 単位[mm]
副3〜大気 φ21×52 φ21×52 φ21×72 単位[mm]
スピー カユニット W3-881SJ W3-881SJ W3-881SJ Tangband製
共振周 波数 142
116
101
84
68
57
未計算 未計算 簡易計算で推定した値[Hz]

 これらのモデルは、基本的に全く同じ構造で、空気室の結合構造が異るだけ である。3本まとめて製作し、評価してみた。但し、AICC-CRのAIT080aは、製作を間違えて、左右の構造が違ってしまっている。間違って製作し たAICC-CRは、結構大きな差が出来てしまったが、そのまま使用している。

 図面は、ここを参照してくださ い。3機種まとめてあります。
 製作したものは、左の写真のうち、小型のサイコロ状 の6個である。その他も標準型MCAP-CRである。

 写真で見てもどれがどれか分らないようになっている。これは、他の人に比較して頂くときに、先入観が入らないようにするためでもある。

 実際に聴いてみると、どの機種がどうかという差は小さいと感じたが、どの機種も、ローエンドは30Hz近くまで延びており、パイプオルガンを再生してい るときにダクトに手をかざすと、強烈な風圧を感じるほどである。
 これらを自分のリスニングルームの2倍程度の容積が ある(たったの12畳)居間に持ち込んで比較試聴した。このときは、ゲテもん工作実験室の松さんに立ち会って頂いた。

 松さんには、それぞれがどのモデルであるかを明かさずに、切り替えて聞いていった。

 最初は、これらのモデルの違いが殆ど分らなかったが、JAZZ(ザ.グレートジャズトリオ)のライブ録音を聴いたときに、(左右の異る)AIT080a が最も良く聞こえた。

 他のCDを聴いたときには、これらのモデル違いは微妙であった。

 因みに、自分単独での評価を以下に記す。

 鬼太鼓座の弓ヶ浜を再生すると、どのモデルもこのサイズにしてはかなりのスケールで再生するのだが、ローエンドの雰囲気は、CBS-CR型の CBT080aに僅かに分 があるように聞こえた。但し、ダクトに手をかざすと、主空気室に直接繋がっていない副空気室のダクトから発せられる音圧は、他のダクトからの音圧より僅か に遅れることが分る。この一拍の遅れが、空気を震わせる雰囲気を出すのに有利に働いているようである。

 AICC-CR型のAIT080aは、左右が違ってしまったためか、モノラルの再生時に左右に違いを感じる。このためもあろうか、テストCDを聞いたと きに逆相か正相かを聞き分けるのが難しくなる。ところが、音楽ソースでは最も奥行きのある音場を再現するようだ。

 標準型MCAP-CRであるTR080bは、それまで全て標準型しか聴いたことがなかったためか、何故か落ち着いて聴ける音に感じる。この標準型は、長 期間かけて開発しただけあって音がまとまっているように感じる。

 結局、どれが良いかは、自分では結論が出なかった。差があると云えばあるようでもあるし、注意しなければ分らないような差でもある。

インピーダンスの傾向
  音楽ソースを聴いた感想を主観的に述べるだけでは科学的とは云えないので、スピーカユニットへの負荷のかかりかたを調べてみた。これは、長岡先生の方法に 近い簡便法である。長岡先生は、ピンクノイズを使っていたが、自分は、スィープ信号を使っている。また、直列に繋いだ固定抵抗も自分のものは長岡先生のも のより低い100Ωである。これで、注目している周波数の近傍のインピーダンスの相対的な大小は分るが、絶対値は分らないし、表示されているレンジ内での インピーダンス値の大小も分らない。それでも、インピーダンス曲線ののディップは負荷が大きいことを示すので、このテスト結果もそれなりの価値があるもの と思う。
 左上が、標準型MCAP- CR、右上がAICC-CR、左下がCBS-CR、そして右下が製作を間違ったAICC-CRである。

  簡易的に推定した標準型MCAP-CRの共振周波数は、薄紫色の縦棒で示している。これらの結果からすると、簡易計算法で推定した周波数よりかなり下の 35〜50Hz位にも負荷がかかっているようである。この負荷の理由は解明出来ていない。最低共振周波数は58Hz程度のはずなので、この理由不明の負荷 がなければ、30Hz近くまではローエンドが伸びないはずである。

 周波数特性も、以前は自室に限定という断り付で測定して公開していたが、部屋の影響含みの特性について、定量的に評価する人が居るので中止した。定量的 に評価するには、少くとも、無響室に近い部屋と、校正された機材を使い、規格通りに計測することが必要である。インピーダンスの傾向くらいであれば、定量 的に 評価しようという人が居ないので、これだけを公開するようにしたものである。
 
 主観的な感想を述べると、どのモデルも、殆どの音楽ソースの帯域をカ バーしており、素晴らしいと思う。オーケストラでも、それほど悪くない再生が可能で、大太鼓がホールを震わす雰囲気まで再生可能である。パイプオルガンで も、32Hzまでは再生していることが確認できる。但し、32Hzの低音再生では、高調波歪が大きいので、基音よりも高調波のほうが大きいような再生状態 になる。こうした欠点を考慮しても、同等サイズの他の方式では困難な帯域まで十分に再生している。これが3インチドライバーの音であることは、経験のある 人しか分らないだろうと思う。知らない人を驚かせるのには十分なパフォーマンスである。

 興味があるのは、スピーカー ユニットを別なものにしたときどのような音になるかということであるが、それは、未だ実験していない。W3-881SJは、ポリプロピレン振動板であり、 細かな違いを鳴らし分けるのは必ずしも得意ではなさそうなので、いずれは、ペーパーコーンのFE83Enなども試してみたい。




6.標準型MCAP-CRの設計における注意点


 MCAP -CRの設計方法について、ご質問を頂くことがあるのだが、現在のところ、最適設計法は確立されていない。しかし、『何も分らない』では、設計は暗中模索 になってしまうので、現状までに得られているメモを記すことにした。新しい発見があれば、日記に随時更新してゆき、ある程度纏まったところで設計法のペー ジを書き足したいと思う。以下が、現段階での設計法である。

(1) 設計諸元の目安

公称口径 副 空気室の数 内 部ダクト断面積の総和 外 部ダクト断面積の総和 主 空気室の容量 副 空気室の容量 最 低共振周波数
8cm以下 2 実効振動板面積の0.5〜1倍

各ダクトの断面積は同一にするのが原則であり、同一にしない場合でも、平均値の+/-10%を超えないようにする。
実効振動板面積の0.3〜0.6倍

各ダクトの断面積は同一にするのが原則であり、同一にしない場合でも、平均値の+/-10%を超えないようにする。
1〜2[L] 主空気室の0.5〜2倍

共振周波数の低いダクトを配置する空気室は大きめに設定する
60〜70Hz
3 50〜60Hz
4 40〜50Hz
10〜12cm 2 3〜6[L] 50〜60Hz
3 40〜50Hz
4 30〜40Hz
13〜16cm 2 8〜16[L] 40〜50Hz
3 30〜40Hz
4 20〜30Hz
20〜22cm 2〜4 実 効振動板面積の0.2〜0.6倍 15〜30 [L] 20〜40Hz

(2) 注意事項
設計に当たっては、下記の点を考慮する。

  • 磁気回路が強力で振動板が軽めのスピーカーユニットの場合は、空気室を大きめにとる。目安は、上記の表の上限前後が 良いと思う。空気室の容量が大きいと、ダクトの面積を大きくすることができる。但し、ローエンドを欲張らない場合には、むしろ空気室を小さくするという選 択肢もあり得る。強力型は、経験が少いのであまり解明できていない。
  • 空気室が大き過ぎると低音過多になり、中高域の良さが失われる可能性があるので、大きければ良いというものではな い。
  • ダ クトの断面は、円形がベスト。円形のダクトが得られない場合には、正方形とし、どうしても正方形にならない場合には、正方形に近い長方形にする。スリット 型ダクトは、どのような動作をするか検討がつきにくいため、工学の観点からすると非常に格好が悪い(見た目ではなく、センスが悪く見える)。スリット型ダ クトでは、意図した通りの動作をしないと考えたほうが良い。
  • 各共振周波数の間隔は、超低域側では比較的密に、中低域側では比較的粗にする。
  • TSパラメータを使った設計は完成されていないので、あくまでも周波数特性の公表データを参考にして設計諸元を決め る。
  • 公称径が20cm以上のスピーカユニットを使用すると、全体サイズが冷蔵庫程になってしまうのでメリットは少い。勿 論興味はあるが、室内スペースにゆとりがない場合には推奨できない。

設計諸元は下記の順番に決めてゆく。

  1. 最低共振周波数と最高共振周波数の目標値を、カタログの周波数特性を見て決める。これは、最終的に計算して妥協、修 正する。
  2. 全体のサイズと副空気室の数を決める。これから各空気室のサイズを割り振る。
  3. 共振周波数が目標値に近くなるようにダクトの断面積と長さを決める。
  4. 設計の板取を決め、製作が容易かつ無駄が少くなるように設計諸元を修正する。
構造材料の材質
 MCAP-CR型は、空気室の仕切りが補強を兼ね るため、構造強度は十分であるが、それでも板の振動が発生し、板の音が固有の響となって音色に影響を与える。このため、板の響を積極的に利用したほうが好 ましい場合がある。
  • MDFは、響を抑える効果があるので、付帯音が比較的少いが、反面好ましい響も少い。音が死ぬという人もいる。
  • 松系集成材の響は、好ましいと感じる人が多いようである。しかし、比重が小さく、鳴きも大き目の場合が多いようであ る。かつては良く使っていたが、最近は品質に疑問を感じている。見た目は非常に良い。
  • 積層合板は、木材によって固有の響が違うので何とも云えないが、板の響は少なめであり、癖が少いので、無難な場合が 多い。密度の高い材料のほうが概して音が良いと云われる。
  • 無垢材の音が良いという人も居る。但し、高価なこと、製作が難しいこと、天然のむらによって部分収縮し、製作後に割 れやすい等の欠点があるため、自分は使おうと思わない。使うのであれば、工業製品というよりも工芸品に仕上げる覚悟が必要と思う。
  •  板は厚ければ良いというものではなく、薄いほうがいい場合がある。作例の、TR080a型は、 9mmのメルクシパイン集成材を使用しており板の響が大きい が、W3-316Aを使用したときの音は素晴らしく良く感じる。通常の場合、板厚は、12〜18mmの間で選び、気になる部分は2枚重ねにするとか補強す るというのが良いと思う。



よくある質 問(Frequently Asked Questions)

 以下に、実際に受けた質問と、想定される質問に対する回答をまとめてみた。

MCAP-CR方式のスピーカーシステムは音が良い ですか?

 音 の良し悪しの定義は明確ではなく、大抵の場合個人の評価になります。また、使用するスピーカーユニット、アンプ、構造材料、設計の方針、製作の巧拙等によ り音の印象が変わるので、どの方式を使った場合に音が良いのかという問いには答えがありません。また、音の良し悪しの評価は、部屋や聴く音楽に大きく左右 されます。MCAP-CRは最低域を延ばすのには有効ですが、一部の クラシック作品や映画等を除けば、50Hz以下の帯域が記録されていないことは珍しくないので、MCAP-CR方式が必要でない場合は多いと思います。歌 謡曲やポップス系の音楽では、小型バスレフで十分な場合が多いと思います。

MCAP-CRの製作は難しいですか?

 余 程特殊な設計にしない限り、バックロードホーンよりは製作が容易だと思います。但し、板の切断精度が良い(バックロードホーンと同程度)ことが必要です。 単純なバスレフ型よりは難しいでしょう。組立のミスには十分に注意してください。注意しないと必ずと云っていいほど間違いが発生します。

MCAP-CRの計算は出来ますか?

 厳密な計算は難しいですが、標準的なMCAP-CRについては、共振周波数の簡易計算方法を提案しているのでそちらを参照してください。
  標準形以外のMCAP-CR(AICC-CR, CBS-CR等)は、共振周波数の簡易計算法が確立されていません。

 音圧の計算も可能ですが、まだプログラムが完成していません。運動方程式を初期値問題として離散方程式を初期値順に1ステップずつ逐次計算してゆけば、 結果として音圧の定常値を求めることは可能です。興味のある方は、挑戦してみてください。こちらが参考に なるでしょう。

どのようなアンプを使えば良いですか?

 電 源のしっかりしたアナログ式半導体アンプをお勧めします。デジタルアンプは、故障して発振する可能性がないとは云えません。運悪く発振させてしまうと、ス ピーカーユニットを破損させる可能性があります。破損させても良いのであれば、デジタルアンプはお勧めです。アナログアンプは、故障しても大抵は信号が切 れるだけなので大丈夫と思います。デジタルアンプでも発振防止回路が付いているとか、発振を検知して出力を切断するなどの機能があれば問題ないでしょう。 但し、そのような機能を持った製品があるかどうかは分りません。

  真空管アンプは、効率が低いので、ピアニッシモからフォルテッシモに瞬時に変化するような近現代楽曲の再生には向かないと思いますが、ポップス系の音楽で あれば問題ないと思います。瞬間的な電流増加に十分に対応できないアンプで、ストラヴィンスキーなどのダイナミックレンジの広い曲を聴くと、フォルテッシ モに変る部分で音が詰まります。但し、このような問題は、歌謡曲を聞いても発見できません。

 予算が十分にあれば、アキュフェーズ等の高級品で電源のしっかりしたものが良く、お金をかけたくない場合には、ユニエル電子等の基板を使用して自作するのも選択肢に入れて良 いと思います。私はユニエル電子のアンプをメインに使っていますが、このアンプはお客様の評判が良好です。

MCAP-CRの設計ガイドラインを教えてください

 別にまとめてありますので、こちらを参照してください。

ダクトの設計長さが図面と違うのですが

 ダ クトの設計長さには、ダクトの有効径の0.7倍を加算しています。これは、長岡先生が使用していたダクトの前後の空気の加算分ですが、正確なものではあり ません。ダクトの長さが多少変わると、共振周波数の計算結果は変わりますが、気にするほどのものではありません。計算の不確かさを構成する要因は、他に幾 らでもあります。また、聴感で差を検知できるレベルかどうかは分 りません。

ダクトをスリット状にしたいのですが

 ダ クトをスリット状にすると、空気バネと質点で構成されるという前提が崩れ、動作が予測できなくなります。勿論精密なシミュレーションは可能ですが、私も試 したことがありませんし、メーカーも研究しているかどうか分りません。想像では、効率が落ちること、共振周波数が下がること、共振周波数のピークが小さく なだらかになるのではないかと思います。

  工学的な観点からすると、円形以外のダクトで長さよりも幅のほうが大きいというのは、違和感があります。そのような寸法にすると、振動方向と直角方向に空 気の粗密の分布が無視できないほどに出来てしまうと考えられるからです。設計者自身が、スリット型ダクトのメリット、デメリットを認識したうえで採用す るのは良いのですが、面 積と長さを合わせるだけの単純な計算は、全く合わなくなると思います。

 ダクトは円形断面が基本で、円形断面のダクトを入手できない場合は、正方形断面を 妥協点とすることをお勧めします。最大の妥協点は、1対ルート2位(1:1.4)の長方形断面位ではないでしょうか。これとて明確な根拠がある訳ではあり ません。

ダクトの断面積は大きいほうが良いのですか?

 ス ピーカーシステムから発せられる音波の音圧を正確に計算することは困難ですが、目安として、実音圧(dB値ではなく、Pa値)は、振動速度の2乗、断面積 または振動板面積の1乗に比例します。 ダクト面積を小さくすると、速度は面積比の2乗に『概ね』反比例して大きくなりますが、面積に比例して小さくなります。但し、面積が小さいと、ダクト内面 の影響が大きくなり、実効断面積が小さくなります。また、ダクトの前後では、ダクト面積が小さいほど音圧の逃げが大きくなり効率が落ちます。このような理 由で、最適点はどこかにあるはずですが、今のところ発見できていません。自信がない場合は、ガイドラインに従って設計してください。要約すると、必ずしも ダクトの断面積が大きいほうが音圧が高くなるということはありません。むしろ小さなダクトのほうが効率が良い場合があります。

MCAP-CRの群遅延特性は良いですか?

 未 だ、計算したことも、測定したこともありませんが、いずれは検討してみたいと思います。恐らくダブルバスレフ相当の特性になると思います。しかし、この ような特性だけで音を評価することは出来ません。本当に評価するには、アンプを含め、信号と音波の波形とを比較すべきで、スピーカーユニットの振動板質 量、電磁気特性やアンプの電流供給能力が重要になりますが、こういう特性評価に固執する人は少なからずいるようですが、そういう人が必ずしもそこまで考慮 しているかどうか分りません。評価特性 は、あくまでも性能の一面を評価するだけであると考えてください。公開されている周波数特性も、動特性を考慮していないので、聞いた感じと一致しないこと を経験した人も多 いと思います。




参考: このページは、2010年4月3日に改定しました。 以前のページはここを参照してください。
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