並列配置型小部屋構造(MCAP)スピーカーシステム
Multiple-Chamber Aligned in Parallel (MCAP) Speaker System
目次
1. はじめに
2. MCAP方式の特徴
3. スピーカーキャビネットの分類
4. MCAP方式の動作原理
シングルバスレフの動作原理
マルチバスレフからMCAPへ
5. 製作例

6. 付録
技術文書Technical Documents (English)
計算式の詳 細(日本語PDF) Calculation Details (PDF in English)
概念につ いて(英語PDF)Concept of MCAP Cavity Resonator (PDF in English)
MCAP型スピーカーシステムの 簡易計算方法(日本語PDF)Simpler Method to Estimate Characteristic Frequencies of MCAP Cavity Resonator (PDF in English)
MCAP型共振周波数簡易計算シート
(Microsoft Excelファイル)

MCAPシ ステムの製作例-2     (8cmフルレンジを使用した小型システム)
MCAPシステムの製作例-3、4 (13cmフルレンジを使用した小型、中型システム:ミューズの方舟2008で発表)
MCAPシステムの製作例-5     (13cm励磁型高級フルレンジを使用したシステム)

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1. はじめに


 超低音を再生するということは、音楽ファンにとってもサウンドマニアにとっても夢であったと思います。勿論最低域までを再生できるスピーカーシステムは 多 く あ りますが、高価である、大型であるとか、全域の能率が極端に低いなどの問題がありました。
 並列配置型小部屋構造(MCAP)スピーカーシステムは、これらの欠点を克服し、か なりの小型化に成功しました。MCAPシステムは、理論上は共振周波数を無限個とることができるバスレフシステムであり、このことによって、ダブルバスレ フでディッ プになっていた音域も音圧を上昇させることができます。結果として、ダブルバスレフとさほど変わらないサイズで、低音域をフラットに近づけることが可能と なりました。
この方式はいままでどこにも見つからなかったので、私自身で特許出願しました。特許の出願内容は、特許庁より公示される予定ですが、ここでは、公示に先 立っ て、内容 を一部公開します。
 特許出願したとは云っても、アマチュアの方が自分のために製作されることは自由ですので、ご覧になって興味をお持ちでしたら、ご紹介する作例等を、是非 ご 自分で製作してみてください。今までにない、新しい音を聞くことができると思います。また、製作されましたら、是非ご感想をお聞かせください。方式を開発 でき たからといって未だ最高のシステムを開発できたという訳ではありません。このような技術には完成はありません。

 MCAPスピーカーシステムは、私が自分自身で開発した方式です。MCAPシステムの原型は、バスレフ型或いはダブルバスレフ型で、理論に裏付けられた 方 式 であり、かなり精密に計算して設計することができます。設 計の自由度が高く、また、共振周波数を自分で設定できるので、エンジニアにとっては、面白い方式だと思います。設計には、固有値の計算プログラミングが必 要になります。固有値の計算プログラムは簡単ではありません が、いったん作成してしまうと後は自由に設計できるので、好みのサイズ、形状に仕上げることが可能です。

 このページでは最初にMCAP方式の特徴と原理を紹介し、最後に作例とデータを紹介します。作例には、板取図と製作図を付けますので、音をお聞きになり た い方 は、実際に製作することができます。私が設計したものは、単純な直方体(立方体も含む)のものばかりですので、設置に困ることはないと思います。また、設 計の主要寸法(各空気室の容量と各ダクトの断面積及び長さ)を同 じにすれば、形状を変えることもできます。

 実際の作例を公開する場は設けていませんが、場所を提供して頂ければ、実際にお聞かせすることが可能です。その場合は、電子メールにてご連絡ください



2. MCAP方式の特徴


 MCAP方式とは、並列配置型小部屋構造(Multiple-Chamber Alligned in Parallel)とい名付けたスピーカーキャビネットの様式で、簡単に云うと、スピーカーユニットを取付ける主空気室に、並列に副空気室を複数並べた構 造で す。このことにより、共振周波数をいくつでも増やすことができるようになり、最低音域を延ばし、低音域のレベルを持ち上げることが可能になりました。この 方式は、それまでどこにもこの構造が無かったので、2007年に特許出願しました。現時点では、まだ、公開されておらず、審査請求も行っていません。
 方式として優れていると考え、特許出願したとは云っても、特許費用を維持できるかどうかというとかなり望みは薄いものだと思います。何故なら、構造及び 計算方法が複雑で、大量生産にも向いていないと考えられるからです。
構造は、上手に設計すれば、バックロードホーンよりも製作しやすいと思いますが、まだ、簡易計算法が見付かっておらず、現状では、計算プログラムが必要で す。但し、効果は素晴らしいもので、機会があれば是非ともお聞かせしたいものです。

 MCAP方式には下記のような特徴があります。

(音の特徴)
  • スピーカーユニットのf0以下の周波数を再生することができる。
  • バックロードホーンや共鳴管型システムに比べて小型でありながら、再生周波数の最低域を伸ばすことができる(現在までの設計で は、最低域の音圧は高くない場合がある)。
  • スピーカーユニットへの負荷は共振周波数にのみ強くかかるので、増幅できる周波数は中低域だけであり、中高域への影響はあまりな い (バスレフと 同様)。
  • 比較的強力なウーファーユニットやフルレンジユニットと相性がよい。非力なユニットでは、低域が締まらない。しかし、強力過ぎて 負荷のかから ない帯域でハイ上がりになっているフルレンジユニットでは、全体としてはフラットになりにくい(中域に負荷がかからないので、中弛みになる場合がある)。
  • バックロードホーンとも共鳴管型とも、音の傾向が異り、音はバスレフに近い。低音側の再生周波数限界はバックロードホーンよりも 伸ばしやすい が、中低域の音の厚みはバックロードホーンよりも出しにくい。

(構造の特徴)
  • スピーカーユニットを取付ける主空気室にダクトを介して複数の副空気室を並列に接続する。
  • 副空気室のうち少くとも1つ以上は、外部に開放したダクトを持つ。
  • 副空気室のレイアウトを変えることにより、トールボーイ型、幅が狭くて奥行きの深い形状、奥行きが短く、幅が広い形状など、形状 を自由に設計 できる。
  • 各部屋の仕切りが補強を兼ねるので、他のどの構造と比べても特に強力にすることができる。厚い板を無理に使ったり、補強の板を取 付ける必要が な い。
  • 外部に向けたダクトは前方、後方、側方、上方など好きな方向に向けることができる。

(設計のポイント)
  • 最低共振周波数は、実用範囲内で、なるべく低くとる。
  • ユニット単体の周波数特性で、レベルが落ち始める周波数以下に、共振周波数を分散させる。通常は200Hz以下に共振周波数をと る。但し、そ れより上の周波数に共振周波数をとっても好みに合えば差し支えない。
  • 主空気室に接続されるダクトの断面積の総和は、概ねユニットの実効面積以下にする(ユニットの実効面積の50%以下が標準)。あ まり大きくと るとバスレフとしての負荷がかかりにくい。
  • なるべく安定した形状にする。トールボーイ型でも良いが、しっかりと設置できなければ、効果は著しく悪くなる。

(使いこなし)
  • しっかりと設置することが必要。安定した形状に設計し、3点接地することが理想的。4点接地と3点接地とでは低音の出方が全く異 るの で、思ったほど 低音が出ない場合には、3点接地を試してみる。
  • ダクトに手をかざすと共振周波数付近で風圧を感じることができる。十分に感じられない場合は、ダクト以外のどこかで空気漏れして いるなど疑う ほうが良い。また、ダクトは壁から100mm以上離すほうが良い。
  • 超強力なフルレンジユニット(FostexのSuper以上)を使用する場合は、中高域が相対的に高くなりすぎる場合がある。こ の場合は、 トーンコントロールで低音を持ち上げると良い。FE108Sを使用した例では、低域の音圧はやや寂しい感じであったが、トーンコントロールを使用すること で、改善できた。元々かなり低い音域を再生するように設計するので、コーンの空振りに終わることはなく、トーンコントロールを使用すれば最低域にも負荷を かけることができる。
  • 最適のスピーカーユニットは、磁気回路が強力でありながら、中高域のレベルが高過ぎないものである。TechnicsのF20シ リーズが最適と 推定するが、現在入手はほぼ不可能となっている。入手可能なユニットで、適していると推定できるものは、Fostexでは、FE83E、FE103E、 FE126E、FE166E、FE168EΣ、FE206E、FE208EΣ、FF85K、FF125K、FF165K、FF225Kである。FE166 (168)S、FE206(208)Sは、更に良いのではないかと推定するが、新品の入手は難しい。また、 Tangbandでは、3インチシリーズは概ね強力で、どれも推奨できる。特にW3-316は、コストパフォーマンスが抜群なのでお勧めできる。 Tangbandを使用する場合はダイキャストフレームのものを選択したほうが良い。
  • 最低音域の音圧が十分に上がらない場合は、大気開放側のダクトのいくつかを塞いでみると良い。
  • 吸音材はある程度使ったほうが良い。しかし、使いすぎは良くない。吸音材は、スポンジやウレタンフォーム等が入手しやすく固定も しやすいので 良いと思う。固定しなければ、ダクトを塞いでしまう可能性がある。実際に、スポンジを使用した限りでは、悪影響は特に感じなかった。
(欠点)
  • 構造が立体的で複雑になるため、間違えずに組立てるには相当な注意が必要である。設計した本人でさえ、図面と比べながらでなけれ ば製作するこ とができなかった。製作を外部に委託するためには、三角法の図面だけでなく、等角投影法や斜投影法などの見取図を提示しなければ間違える可能性が高い。
  • 空気室を立体的に配置する場合は、板のカットの要求精度が他の方式と比較して特に高い。カットを依頼する場合は、切る順番まで指 定しないと、 誤差が問題になる。自信がない場合 は、専門の加工業者に依頼するほうが良い。空気室を同一平面内に配置する場合は、寸法要求精度は、音道幅が一定のバックロードホーン型と同程度の加工精度 で良い。
  • プログラムがなければ計算できない。計算式を立てるのにもある程度の専門知識が必要になる。
  • 特に強力で中高域の再生レベルが高いスピーカーユニットを使用する場合は、トーンコントロールの併用が必要になる(設計ノウハウ を 蓄積すれば将 来は不要になるかもしれないが、現在の作例では、フォステクスのFE108S、FF125Kでは、トーンコントロールでBASSを持ち上げたほうが良い結 果となっている。)




3. スピーカーキャビネットの分類


 MCAP構造について説明する前に、既存のキャビネットの方式を楽器になぞらえて勝手に分類してみました。私はキャビネットをの4通りに分類していま す。

(1) ラッパ型
 ホーンタイプのキャビネットです。代表的なものは、バックロードホーン型です。管の断面積が出口側で徐々に大きくなり、幅広い周波数に負荷がかかりま す。

(2) 笛型
 共鳴管型のキャビネットです。管の断面積は一定に近く拡がり方は僅かです。笛のように途中に穴を開けると、その部分で一部開放されるため、共鳴周波数を 付 加できま す。この方式は、私が、ミューズの方舟のイベントで発表しています。

(3) 太鼓型
 バスレフ及び密閉型のキャビネットです。密閉型は、皮が叩く1面で、バスレフ型は皮が2面になります。但し、大型の密閉型は、太鼓型とは云えず下記の非 楽 器型というべきだと思います。ダブルバスレフは、皮が両面と中に皮の仕切りが入っ たものです。MCAPは、太鼓型の動作を拡張したものです。こんな形の太鼓を作ったら面白いだろうと思います。

(4) 非楽器型
 キャビネットに働きを持たせないものです。背圧を利用しない大型の密閉型、バッフル型、後面開放型等は、振動板の働きのみを期待し、その他はカットして し まうものです。
 固有の響きを付けない(ことを目的とした)構造なのでハイファイには一番近いと云えるかもしれません。しかしこの方式では、小型化が難しいので挑戦した いとは思いません。

 (1)〜(3)は、工学的には、源信号に余分な響きを付加することが目的なので、ハイファイと呼べない可能性があります。しかし、実際に音を聞くとこれ ら が非常 に自然な響きなのです。源信号を基にした響きを付加するというのは、楽器自体が基音に倍音が付加されて固有の響きを出すことと同じなので、厳密には問題が あるものの、結果として音楽を聴くには優れた方式 なのだと思います。



4. MCAP方式の動作原理


 MCAPの方式を説明するためには、バスレフ構造について、触れる必要があります。バスレフはMCAPの元になる方式だからです。

シングルバスレフの動作原理

 図1にバスレフ構造の動作モデルを示します。これは、バスレフダクトの中にある空気の塊を、質点(Mass)とし、キャビネット内の空気をばねとして 扱っ た単振動モデルです。図1の左側が、バスレフ箱の構造です。空気室(Chamber)にダクトが付いています。このダクトの中の空気の塊が質量を構成する ので、図1の右側のように物理的に簡単なモデルで表すことができます。ばね定数は、ある範囲の中では、一定とみなせるので、この系には固有の振動数があり ます。それが、バスレフの共振周波数と呼ばれるものです。
schematics of single bass-reflex speaker
図1 バスレフ構造の動作モデル

 図1においては、Massが一つしかないので、振動の自由度は1であり、固有振動数は一つになります。バスレフ方式の共振周波数は、次式で表されます。
    fD = 1/2π*(k/m)1/2
ここで、
    fD : ダクトの共振周波数
    k  :  空気室のダクトに対するばね定数
    m :  ダクトの中の空気の質量(実際は外側の空気も一部含みます)  
詳細については、PDFファイルに載せていますので、そちらを参照してください。

 図2にダブルバスレス方式の動作モデルを示します。ダブルバスレフは、バスレフを拡張したもので、質点が2個、空気ばねが2個あります。

schematics of double-bass-reflex system
図2 ダブルバスレフ構造の動作モデル

 図2のモデルは、力学的には連成振動と呼ばれるもので、振動の自 由度が2となり、2つの共振周波数を持たせることができます。ダブルバスレフ型の自由振動の運動方程式はPDFファイルに詳細を載せてありますのでそちら を参照してください。ダブルバスレフであれば、プログラムを書かなくても手計算で、共振周波数を求めることができます。この方法を解説してあるものは見た ことがありません。長岡先生の著書にある式はどのようにして導いたのか分かりませんが、ここで紹介する方法は、純力学的なものです。

 ダブルバスレフの計算ができれば、空気室を直列に並べることにより、トリプルバスレフ、クオドラプルバスレフ、とどんどん拡張していくことができます。 私 は、最初にクオドラプルバスレフに挑戦しました、音は成功とは云えませんでしたが、別のところに結果を紹介します。成功しなかった理由は、単に、成功する までやっていなかっただけです。研究すれば良いものができるのではないかと思います。
 マルチプルバスレフの計算式も別に紹介します。トリプル以上の場合は、共振周波数を求めるために、プログラミングが必要になりますが、プログラムは MCAPと同じものを使用できます。但し、3連以上のマルチプルバスレフは、ユニットの背面の音が出てくるまでに、いくつものダクトを通るので、鈍った音 になるので はないかと思います。

schematics of quadraple-bass-reflex model
図3 クオドラプルバスレフ構造の動作モデル



マルチバスレフからMCAPへ

 MCAPは、上記のマルチバスレフとは異り、副空気室を並列に配置します。これは、ダブルバスレフの第2空気室が複数あることに相当しますので、スピー ド 感は、ダブルバスレフと同等になると思います。しかし、MCAPでは中弛みになっていた帯域を持ち上げることができるので、より強力なスピーカーユ ニットを使用することができ、スピード感を稼ぐことができます。

 先ず、MCAPの動作原理図を下記に示します。図4では、副空気室が4つですが、原理的には2つ以上であれば良く、無限に繋ぐことができます。
schematics of MCAP

図4 MCAPシステムの動作原理

 この図では、Massが副空気室の数の2倍の8個ありますので、共振周波数は8つあります。8つの共振周波数を異った値にするためには、副空気室の容量 や、ダクトのMassを調整し、固有値が重解を持たないようにする必要があります。ここで、外側に向けた矢印は大気開放を意味しますが、全てが大気開放さ れている必要はなく、1つ以上開放されていればかまいません。開放されていないダクトは、Massを構成しませんので、共振周波数は少くなります。計算す るときには、Massを十分に大きな値とすれば、近似値が得られます(0Hzに近い解が得られます)。

 スピーカーユニットが取付けられた主空気室、その他の副空気室は空気バネとして作用し、それらを繋ぐダクト及び大気に開放されたダクトの中の空気は Mass として作用します。したがって夫々のMassは、相互に作用しながら振動することになります。

 MCAPの計算式は、複雑になるので、PDFとして別に示します






5. 製作例

 図5にMCAPシステムの製作例を示します。この例では、主空気室の他に副空気室が3つあり、ダクトはその2倍の6本あります。従って、共振周波数が全 部 で6あることになります。型式を、TCAP-200-001としました(その後、モデル名が長いのが気になり、本機は、TR200aと改めました)。TR は、イタリア語のtre(3)から取りました。副空気室が3個、ドライバ口径が200mmの第一作(順番にa, b, c,...となります)という意味です。同様に副空気室が2個の場合は、DU、4つ以上の場合はQU, CI, SE, ST, OT、...となります。多分8つ(OT)までが限界でしょう。
 図では分かりにくいですが、正面@の大きな穴が、メインスピーカーユニットを取付ける穴、小さな穴がスーパーツィータの取付穴です。真中のCとCで囲ま れ た部分が空気室です。メインユニットの裏側が主空気室、最上段が、第1副空気室、主空気室(2段目)の下が、第3副空気室、最下段だ第2副空気室となりま す。垂直に向けられたダクトが、主空気室から副空気室を繋ぐもので、水平のダクトが各副空気室から大気に開放するものです。
板取図はこちらをご参照ください(板取図-1板取図-2組立図-三角法)。

assembly
図5 MCAPシステムの製作例(TR200aに改名)

このシステムの、仕様は下記の通りです。

項目
仕様
備考
外形寸法(縦[mm]×横[mm]×奥行[mm]) 900×290×320 突起部を除く
主空気室容量[ℓ]
13.6

第1副空気室容量[ℓ] 14.0

第2副空気室容量[ℓ] 14.0

第3副空気室容量[ℓ] 16.0

第1ダクト寸法(縦[mm]×横[mm]×相当長さ [mm])
50×50×115
主空気室〜第1副空気室
第2ダクト寸法(縦[mm]×横[mm]×相当長さ [mm]) 50×50×132 主空気室〜第2副空気室
第3ダクト寸法(縦[mm]×横[mm]×相当長さ [mm]) 50×50×260 主空気室〜第3副空気室
第4ダクト寸法(縦[mm]×横[mm]×相当長さ [mm]) 50×50×132 第1副空気室〜外部
第5ダクト寸法(縦[mm]×横[mm]×相当長さ [mm]) 50×50×182 第2副空気室〜外部
第6ダクト寸法(縦[mm]×横[mm]×相当長さ [mm]) 50×50×142 第3副空気室〜外部
スピーカーユニット(メイン)
FOSTEX FE206Σ
呼び径20cmフルレンジ型
スピーカーユニット(ツイータ)
FOSTEX FT96H
ホーン型スーパーツィータ
ネットワーク
FT96Hに0.68μFを直列接続
メインユニットと逆相接続

 FE206Σ、FT96Hは、1992年に購入したもので、あまり使用していませんでした。FE206Σは、優しく な めらかな音です。このシステムはFE206Eを想定して設計しましたが、Σが余っていたので利用しました。バックロードホーン型や共鳴管型と比較すると、 スリムで背も低く、設置に制約が少いことが特徴です。音の傾向は、バスレフと類似ですが、単純なバスレフよりも、低音域が豊かになります。このユニットを シングル バスレフやダブルバスレフで使用するとかなり低音が不足すると思いますが、この方式では、低音の不足は感じられません。


 このシステムがどのように動作しているかを示すために、インピーダンスの傾向を測ってみました。傾向と書いたのは、厳密なインピーダンス計測ではないか ら です。方法は、長岡先生が実施しておられたものを多少修正したものです。スピーカーシステムと直列に100オームの抵抗を接続してスイープ信号を与え、ス ピーカの両端に現れた電圧をFFTアナライザに掛け、ピークホールドしたものです。FFTのサンプリング時間を十分にとるとかなり細かく見ることができま す。これを図6に示します。図6で赤い線がピークホールドしたもの、緑の線はノイズです。長岡先生のようにピンクノイズで見なかった理由は、スイープのほ うが線がきれいに出るためです。共振周波数が2つ程度であれば、長岡先生と同じ方法でも実用的には大差ないのですが、MCAPのように共振周波数が多数あ る場合には、なるべく細かく観察したいのでこのような方法にしました。FFTのソフトウェアには、FFT Wave Version7.2を使用しました。


impedence
図6 インピーダンス傾向曲線

 スイープ信号が20Hzから始まっているため、概ね30Hz以下は傾向が明確ではありません。図6で、30Hz以上を信用すると、46Hz、70Hz、 122Hzに負荷がかかっていることが明確に示されていますが、その他は明確ではありません。

 私の計算では、45Hz、55Hz、64Hz、70Hz、92Hz、121Hzに共振が現れることになっていますが、測定の結果 では、下線を引いた周波数では、共振特性が明確であるものの、55Hz、 64Hz、92Hzは明確には現れていません。多少は現れているようにも見えますが、これらの周波数では、共振が弱いのか、或いは、スピーカーユニット単 体 のインピーダンス特性と重ねたために良く分からなくなっているようです。

 このシステムが設置されているのが、6畳洋室なので、そこで簡易的に測定した周波数特性を図7に示します。ここでは、アンプのボリウムを2に固定して、 オーディオテクニカのAT-CDL7に収録されているスイープ信号(20Hz-20kHz)を再生し、それの音をマイクロフォンで記録し、FFTアナライ ザにかけピー クホールドしたものを使用しています。但し、FFT Waveは、周波数帯をリニアに分割しているようで、高域側では信号の取込時間が不足するようです。本来は、リニアス イープ信号使用すべきなのですがが、リニアスイープを作成する方法が分からなかったのでこのような変則的な処理 をしています。

 測定は軸上1mで実施、測定機材は、及び、測定に関する考え方は、『測定について』を 参照してください。

 この場合は、JISのような規格に基いた測定ではなく、また、部屋には特別な対策をしていませんので、部屋の癖も含まれた特性であり、参考値に過ぎない ことを了解してご覧になってください。また、残念ながら、サウンドカードによっても、測定結果は変わります。以前は、ONKYOのSE-U33GXを使用 し ており、そのときは、もっと低域のレベルが高く示されていましたが、調子が悪くなったた め、最近交換しました。あくまでも、アマチュアの計測であることを念頭に置いてご参照ください。

測定をやりなおしますので、それまでお待ちください。
図7 1/12オクターブバンドで表示した周波数応答の簡易測定結果(緑は環境騒音)

 図7で、縦軸は絶対音圧ではなく、相対値です。横軸は20Hz-20kHzを1/12オクターブバンドに分割したものです。長岡先生は、1/3オクター ブ バンドで測定しておられました。そのほうが結果も見やすく、特性も良く見えるのですが、1/12オクターブバンドのほうが、細かく観察できるし、結果とし て厳しい評価になるのでこのようにしました。スイープ信号を使用した理由は、測定中に、周波数応答を自分の耳で確認できるからです。スイープを使用する と、低音の再生限界が、目と耳で確認でます。また、高調波歪も測定中に確認できます(メインの周波数の整数倍の小さなピークが画面に現れます)。

 図7が示すように、 30Hz位から音圧が感じられ、その後はスムーズに音が大きくなることが確認できました。260Hz付近では、大きなディップが見られますが、このディッ プは、1/3オクターブバンドで表示すると消えてしまいます(図8)。1/3オクターブバンドで表示するとフラットに見えますが、これは、別に性能が良く なったということではありません。500Hz〜2kHz位のレベルが高いのは、FE206Σの癖かまたは、この測定の不確定性によるものと考えられます。

 FFTの取込時間は、低音域での分解能をを上げるためにソフト ウェアの上限である2.97 秒としました。オーディオ雑誌等には、取込時間が短く、低域の分解能が足らないものも見受けられます(低域側の表示が大雑把で、妙にフラットになりま す)。そのようなデータの信頼性はどうなのでしょうか。

 因みに、ピンクノイズをFFT分析しても、最低域が、どのあたりにあるのか、聴感では判別できませんので、低域側のノイズの評価は勘と経験に頼らざるを 得ず、測定結果に100%依存することになりま す。 また、高調波歪の確認もできません。私は、測定中に聴感で確認したいので、スイープ信号を使うことにしています。

(参考)
測定をやりなおしますので、それまでお待ちください。
図8 1/3オクターブバンドで表示した周波数応答の簡易測定結果(緑 は環境騒音)


 聴感は、主観的ですが、オーケストラやオルガンのCDを使用して評価しました。

評価に使用したソフトと評価は下記の通りです。

ソフトウェア
評価したポイント
Frank: Organ Works (Brilliant 92282: July 1989)
オルガンの低域の出方を確認する。フランクのオルガンは、 低域が豊富に入っている。
Shostakovich: Symphonies
Rudolf Barshai /WDR Sinfonieorchester
(Brilliant 6324: 1992-1998)
打楽器の生々しさ、弦楽器の清涼等オーケストラが自然に再 現できるかを確認する。
低音は瞬発的な速いもので、オルガンのような継続的なものとは異る。
Gounod: Faust
Cluytens/Orchestre et Chieurs du Theatre National de l'Opera
(EMI CMS 7699832: 1959)
やや録音は古いが、ソプラノ、テノール、バスの夫々の主要 なパートを自然に聞かせられるか、コーラスが歪少く再現されるかを確認する。
Berlioz Edition
Eliahu Inbal/Radio-Sinfonie-Orchester Frankfurt
(Brilliant 99999: 録音年記載なし)
打楽器、管弦楽、管楽器の再現性、特にずしりとした速い低 音を再生できるかを確認する。
Shostakobich: String Quartets complete
Rubio Quartet
(Brilliant 6898, 2002)
弦楽器のキレのよさ、楽器のサイズ、定位、雰囲気が再生さ れているかを確認する。

 上記のソフトウェアを再生したところ、どれも自然に再生され、癖のようなものは感じませんでした。特に低音の再生が生々しく、オルガンなどは、周囲に気 兼 ねして音量を絞る必要がありました。この他室内楽、打楽器、弦楽器等もそれらしく再生しました。しかし、小口径のフルレンジシステム(下記)に比べると、 バラン スの良さで勝りますが、シャープさに欠け、優し い 感じになりました。弦楽四重奏曲を聴くと、FE108Sを使用した小型システム(MCAP式)と比べてやや甘口で、定位も大雑把な感じになりますが、それ でも 生々しく自然に再生されます。6畳間なので仕方がありませんが、数十畳の広い部屋で 聞けば、あまり問題にならないと思います。歪感が少いので、音量をどんどん上げたくなります。広い部屋で大音量で鳴らしたい音です。

 全体な評価では、このサイズ、この能率(96dB程度と推定)でありながら、低域から高域までバランスの良い音を再生することができました。 FE206Σを使用してこのサイズでこの音を出すことは他の方式では簡単ではないと思います。高級スピーカーユニットを使用している(フルレンジとツィー タ 全部で5万円前後!)だけあって一聴す る と、かなりの高級スピーカーが鳴っているように聞こえます。

 写真がないと寂しいので、全体写真を示します。部屋の制約があるため、左右の条件が異ります。スピーカーシステムは、2組ありますが、ここで紹介し たものは、下側のトールボーイ型です。背面に、3つの ダ クトが露出しています。これは、スーパーシナアピトン合板を使用、カットから組立、仕上げまでを、MAKIZOUクラフトに委託したもので、仕上げはウ レタン塗装です。自分で実施したのは、開梱と、スピーカーユニット、ターミナルの配線と取付、及び脚の取付(紫檀材の円柱状各3本ずつを水性ボンドで貼 付) です。これだけでも2時間程度かかりました。板材のカット以外のすべてを自分で実施すると、丸1週間位かかるのではないでしょうか。場所も、4畳半位は最 低でも必要ですし、端金も相当な数が必要です。

 上側のシステムは、FF125Kを使用して設計製作した同じくMCAP型のシステムで、副空気室が3つ、ダクトが6本のものです。ダクトが前面に2本、 後面に 1 本露出しています。こちらは、メルクシパイン集成材を使用、カットを東急ハンズに委託し、組立と仕上げを自分で行ったものです。仕上げは、アクリルのラッ カースプレー塗装です。東急ハンズのカット精度は、MAKIZOUクラフトには及ばす、最大1mm弱の誤差がありました。アクリルラッカー仕上はかなり綺 麗です。スプレーを6缶ほど消費してしまいましたが、ある意味では下のシステムの仕上より美しいかもしれません。

 尚、上側のシステムは、およそ1辺が1ftの立方体型で、設置が容易になるよう工夫しています。音は、下の20cmのシステムよりも切れが良く、シャー プです が、低域の量感は寂しいので、トーンコントロールでローブーストして使用しています。トーンコントロールを使用すると、芯がしっかりしていて、瞬発的な低 音を力強く 再生することができます。

 尚、AccuphaseのP-350の下側にあるのは、KITAO ITOHの8900というパワーアンプで、故伊藤氏本人の手作りですが、使いこなしが難しいのであまり使用していません。現状ではノイズが入ります。P- 350の音が好みという訳ではありませんが、品質を信頼しているのでこちらを使用しています。

system
システム全体
back side
背面の状況

 因みに、キャビネットのコストは、材料費、製作仕上工賃、送料・税込みで156,000円、これにスピーカーユニットとコンデンサの価格を加えて凡そ 210,000円程度でした。FE206Eを使用すれば、200,000円を多少切る程度になります。
 コストがこれだけかかるということは、市販すれば、2本で40〜80万円程度で売らなければならないでしょう。倍半分の差があるのは、売れる数量の見込 みによって異るからです。メーカー品の販売価格でコストに50%もかけている場合は少いと思います。コストに50%も掛けてしまったら、流通経路での値引 きの余地が無くなってしまいます。市販品であれば、材料費は、個人で仕入れる場合の半分以下で仕入れられると思いますが、製作費は、MAKIZOUクラフ トより少くはならないと思います。このように考えると、このシステムはコストを掛け過ぎ、一般的には売りにくいということになります。但し、バックロード ホーン型と比較するとコストが低いのは確かです。長岡先生のD-55や58等では、板材だけで、十数万円かかりますので、市販すれば2本で100万円以上 でしょう。200万円以上でも良いと思いますが、長岡先生の仰るように、フルレンジ+ スーパーツィータでン十万円というのは、売りにくい商品であることは間違いありません。しかし、仮に、このMCAPシステムを2本で80万円で売ったとし ても、現在では高級の価格帯には入ら ないかもしれません。1本80万円でもお粗末なものはあります。バブルの崩壊と共にオーディオ製品は高くなったと思います。余程売れなくなったのでしょう か。

 好みの問題もありますが、オーディオショーなどで市販品を聞 いた限りでは、TR200a型よりも相当に高価なものでもどうかと思います。かなり高価なシステムでも、低音は重く、固有の振動を感じること があります。大抵の高級市販品は、高価なアンプでなければ真価を発揮できないようになっています。それに対して、この ようなフルレンジシステムは、振動系が軽くできており、ネットワークの負担もないので、高級でないアンプでもそれなりに鳴らすことができます。いまどきで は、P-350は高級の範疇には入らないものではありますが、十分に鳴らすことができます。できれば更に高級 なアンプで鳴らしたいというのが本音ではありますが、P-350が丈夫で長持ちなので交換のタイミングが見付かりません。アンプも含めたトータルで考えれ ばこのようなフルレンジシステムは、コスト面で有利です。

 もしもこのシステムの音に興味があるという方がいらっしゃいましたら、ご連絡ください。実際に音をお聞かせすることができるかもしれません。

 FE206Σは既に生産終了になっていますが、 FE206E、FF225K、、または、FE208EΣで代替できると思います。FE208EΣは、良いとは思いますが、高価なので、FE206Eとの値 段差を埋められるか、微妙なところです。キャビネットを自分で組立てるとすると、板材の価格が38,600円(MAKIZOUクラフトでのスーパーシナア ピトン材の板材、カット代、送料の合計見積:良心的な価格ですね)なので、その場合には、EΣを使用しても、コストは10万円かからなそうです。

 このシステム用のスピーカーユニットとしてバランスが良いのは、特性から推定すると、FF225Kではないかと思います。フォステクスの限定ユニットで は、か なりハイ上がりに なってしまうと予測します。ベストと思われるのは、TechnicsのEAS-20F20ですが、新品入手はほぼ不可能ですし、中古品で は ウレタンエッジが風化していると思います。ツィータは、FT96Hがまだ入手できますが、高価なので、別なものを探すほうが良いかもしれません。スーパー ツィータは味付だけなので、ちょっともったいない気がします。FE166Eで設計しなおせば、ツィータも不要で更にコストパフォーマンスの良いものができ ると思います。
 私は、オークションでFE206Superを入手したのでこのキャビネットに取付けて効果を確認してみたいと思います。確認後はページを更新する予定で す。

 いろいろ書きましたが、このシステムは、現状のままでも、なかなかの 出来ばえであると自負し ております。


MCAPシステムの製作例-2

(概要)3"フルレンジを使用した副空気室が4つの場合のシステムです。40Hzまでは楽々再生します。これが本当に3"のシステムなのかと我ながら感心 しまし た。サイズも手頃で1cftを下回っています。
MCAPシ ステムの製作例-2に続く


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