MCAP-CR型の製作例3,4
ミューズの方舟2008への出品作品


内 容
初 回更新
改 定
1.
ミューズの方舟 2008について 2008/08/10
2008/09/28(改定)
2.
設計コンセプト 2008/08/10 2008/09/28(改定)
3.
ドライバーの選択 2008/08/10 2008/09/28(改定)
4.
設計の詳細 2008/08/10 2008/09/28(改定)
5.
製作 2008/08/10 2008/09/28(改定)
6.
試聴 2008/09/02
2008/09/28(改定)
7.
改造とチュー ニング
2008/09/23
2008/09/28(改定)
8.
補足-1  (MCAP-CR型について)
2008/08/10 2008/09/28(改定)
9.
補足-2  (試作品TR130a)
2008/08/17 2008/09/28(改定)



ミューズの方舟2008自作スピーカーコンテストについて


 ミューズの方舟2008の参加規程は、製造メーカーまたは販売店での表示公称径13cm〜16cmのフルレンジドライバー左右各1本を使用したシステム ということです。

このイベントは、MCAP-CR型を聞いていただくのに、またとないチャンスですので、早速申込、了承を頂きました。MCAP型は、ようや く公開することができるようになりました。ミューズの方舟の方々に御礼申し上げます。

ミューズの方舟2008は、下記の通り開催されます。私の作品も含めて、是非とも聞きにいらしてください。→終了しました。


拙出展作品の当日配布資料です。

■日時
2008年 12月 14日(日) 13:00開始(12:30開場)
■会場
品川区立中小企業センター 3階レクリエーションホール
品川区西品川1−28−3 電話03−3787−3041
■交通
京浜東北線・りんかい線「大井町」徒歩10分
東急大井町線「下神明」徒歩2分
■入場無料
ホーム



設計コンセプト


出品する作品は、勿論、MCAP-CR型スピーカーシステムとします。MCAP型は、キャビネットを大型にしなくても、低域の再生限界を伸ば しやすく、一度音を聴くと離れられなくなる方式だと思います。し かし、音を聴いて頂かないことには、この方式の特徴をお伝えすることはできません。今回は、MCAP-CR型の特徴を活かし、中低域のレベルをなるべく落とさず に、低域の再生限界をできるだけ延ばすことに挑戦します。

設計の目標はMCAP-CR型の特徴を生かし、下記の通りとしました。
(1) 超低音までを中域と同等のレベルで再生、できれば20Hzを十分なレベルで再生できる。
(2) 100Hz前後もレベルを落とさずに再生できる。
(3) サイズは、1本につき、概ね2cft程度を制限とする。
(4) 16cm、13cm共用のキャビネットとする。

(4)は、両方製作する訳にはいきませんので、止むを得ない制限です。普通のバスレフだったらあり得ない設定ですが、共振周波数を複数持つ MCAP-CR型なので、共用にしてもあまり変な音にはならないと思います。
(1)は、かなりチャレンジングな目標です。今まで、QU080b型(8cm)で 40Hzは楽々再生できているので、何とかなると思いますが、やってみ ないことには分りません。20Hzの再生は、(2)の制限がなければ(中低域を犠牲にする)簡単ですが、中低域のレベルを落とさずに20Hzまでというの は、大型システム以外ではかなり困難です。MCAP-CR型でどこまでいけるのか、今回が初のチャレンジです。(3)は、家が広ければどうでもいいことですが、 集合住 宅では、止むを得ないというところでしょう。また、会場まで、運ぶためにも巨大では困ってしまいます。



ドライバーの選択


フルレンジドライバーの選択肢は、限られます。国内ではFOSTEXが主流ですが、13cmではFE138ES-Rしかなく、16cmでは、 FE166E、FF165K、FE168EΣ位しか思い浮かぶものはありません。MCAP-CR型の特徴を活かして低域を延ばすには、比較的強力な磁気回路が必 要ですので、防磁型は使用したくありません。また、できれば、口径が小さいほうが、MCAP-CR型の特徴をお伝えしやすいと思いますので、13cmがベストで す。しかし、限定品は一般的ではありませんので、なるべく採用したくありません。このため、今回は、通常入手可能なドライバーをドイツから輸入しました。

輸入したもののうち、今回使用できるという条件を満たすドライバーは下記の2機種です。

(1) Tangband社製  W5-1611SA
(2) Omnes Audio社製  L5

(1)は、SpectrumAudio社で13cmという表示があり、(2)は、Omnes Audio社の公称径が13cmとなっています。どちらのドライバーも使用の承認を頂いています。

価格は、SpectrumAudio社のEU圏外への販売価格で、L5が1本58ユーロ、W5-1611SAが1本44.1ユーロでした。実際に輸入する には、送料、保険料、銀行振り込み手数料が必要だったので、個人輸入は効率が良くありませんでした。16cmのドライバーでは、Audio Nirvana社に強力なものがあり、輸入を考えましたが、偶々在庫がありませんでしたので今回は購入しませんでした。

これらのドライバーのスペックは、表1の通りです。参考のため、FE138ES-Rのスペックと比較します。

表1 ドライバーのスペック比較
製 造者、型式
仕 様
備 考
Fostex
FE138ES-R
日本製
公称インピーダンス:8Ω
再生周波数帯域:60Hz - 30kHz
出力音圧レベル: 91.5dB/W(1m)
m0: 5g
Q0: 0.27
最大入力: 75W(音楽信号)
実効振動板面積: 82cm2
振動板: バイオセルロース
エッジ: 詳細不明
マグネット: アルニコ1,490g
総重量: 2,860g
フレーム: φ154mm 亜鉛ダイキャスト
価格: 38,000円(消費税含まず)
実効振動板面積は、実効振動半径からの計算値
価格は、Fostex定価
Tangband
W5-1611SA
台湾製
公称インピーダンス:8Ω
再生周波数帯域:60Hz - 20kHz
出力音圧レベル: 90dB/W(1m)
m0: 5.76g
Q0: 0.22
最大入力: 56W(音楽信号)
振動板: ポロプロピレン
エッジ: ゴム
実効振動板面積: 94cm2
マグネット: ネオジウム
総重量: カタログ記載なし
フレーム: φ157mm 強化ナイロン
価格: 44.1ユーロ(VAT含まず)
Q0は、Qms、Qes、Qtsからの計算値
価格は、SpectrumAudioのEU圏外向け販売価 格(Value Added Taxの一部が免除されている)で、輸入諸経 費は含まない。
Omnes Audio L5
ドイツ製
公称インピーダンス:8Ω
再生周波数帯域:58.9Hz - 20kHz
出力音圧レベル: 83.4dB/W(1m)
m0: 4.9g
Q0: 0.34
最大入力: 40W(音楽信号)
振動板: 紙
エッジ: ゴム
実効振動板面積: 82cm2
マグネット: フェライト90mmφ×15mm
総重量: カタログ記載なし
フレーム: φ155mm アルミダイキャスト
価格: 58ユーロ(VAT含まず)
Q0は、Qms、Qes、Qtsからの計算値
周波数帯域の上限値は、SpectrumAudioの表示値(Omnes Audioでは記載なし)
価格は、SpectrumAudioのEU圏外向け販売価 格(Value Added Taxの一部が免除されている)で、輸入諸経 費は含まない。

これらのスペックを比較すると、さすがにFE138ES-Rがダントツの高級仕様で、MCAP-CR型にも向いているようです。音の質も他の機種より良いのでは ないかと想像できます。W5-1611SAは、高級仕様ではありませんが、マグネットが強力なようであり、実効振動板面積も他の2機種より15%も大きい ので、MCAP-CR型での低域再生には有利です。ナイロンフレームが弱そうで気になりますが、触った感じはメタルのプレスフレームよりもむしろ剛性がありそう です。また、価格が低いのも魅力です。仮に日本に輸入された場合の価格は、7,000円前後になるのではないでしょうか。L5は高級仕様ですが、MCAP 型に使用するには、磁気回路が少し弱そうに見えます。能率も低いので、シングルバスレフとのマッチングが良いものかもしれません。
今回は、FE138ES-Rを除く2機種を比較しました。



設計の詳細


今までにMCAP-CR型を7組製作して分ってきたことがいくつかあります。それは、

(1) 副空気室は3個以上あったほうが低音を強化しやすい。できれば3よりも4のほうが望ましい。
(2) 内部の空気室を繋ぐダクトよりも大気開放ダクトの断面積を小さくしたほうが、共振周波数のバランスをとりやすい。
(3) 大気開放ダクトの断面積は、小さめでもあまり問題ない。寧ろ、大気開放ダクトの断面積の総和は、振動板面積の1/3以下のほうが低音を増強しやす い。このことは、特に全体の小型化において重要である。

ということです。
長 岡先生の著書では、バスレフダクトの断面積が大きいほうが、低音を稼ぎやすいが、非力なドライバーだとダクトをドライブできない、というように説明され ています。しかしながら、自分が試した限りではむしろ、断面積が小さいほうが、低域の音圧を上げやすいようです。小さくしすぎると、密閉型と変わらなく なってしまうので、評価は難しいのですが、大きすぎるよりは小さめのほうが良いようです。MCAP-CR型の場合は、大気開放型のダクトが2本以上あるこ とが 普通ですので、副空気室の数を増やし、同時に各ダクトの断面積を小さくしたほうが設計上低音を伸ばしやすいことが分りました。従って、今回は、副空気室を 3個、全部で、4チャンバー6ダクト方式として共振周波数を分散させると共に、最低共振周波数を30Hz以下まで下げることにしました。私の経験では、 MCAP-CR型では、計算上の最低共振周波数よりも少し下の周波数まで再生ができるようです。最低周波数が高い場合は、大気開放ダクトの断面積を減らせ ば、最 低共振周波数を下げることができます。


設計仕様


上記の制約と目標を決めた結果、下の表2の通りの設計仕様が決定しました。副空気室が3個のシステムで130mmドライバーでは2作目ということで、型式 はTR130bと命名しました。

表2 TR130b型の設計仕様
項 目
仕 様
備 考
主空気室容量
9ℓ

第1副空気室容量
9.7ℓ

第2副空気室容量
9.6ℓ

第3副空気室
10.5ℓ

第1ダクト
□40mm×40mm
共振周波数94Hz
第2ダクト
□40mm×80mm
共振周波数85Hz
第3ダクト
□40mm×100mm
共振周波数67Hz
第4ダクト
□33mm×100mm
共振周波数49Hz
第5ダクト
□33mm×180mm
共振周波数37Hz
第6ダクト
□33mm×260mm
共振周波数30Hz

計算の結果では、最低共振周波数が30Hzとなっていますが、本当にこれで良いのか設計段階では疑問があります。今までの経験では、実際の再生可能な最低 周波数は、最低共振周波数を下回っていました。この理由は、モデルの式が正しくないのか、計算方法が間違っているのか、或いは他の要因があるのか、まだ掴 めていませんが、今のところ、運動方程式モデルの原型に問題があるのではないかと考えています。即ち、ダクトに含まれる空気を質点とし、各チャンバーの間 のエネルギ伝達が質点の振動によってしか伝えられない今のモデルに限界があるのではないかと考えています。単純なバスレフ型であれば問題がなかったもの の、MCAP-CR型のように3次元以上の自由度を持たせるには、このような単純モデルでは少し弱いのかもしれません。この点については、現在研究中の簡易計算 モデルに目処がついたらこのページに書き加えます。程々の精度の簡易計算モデルができれば、設計はもっと容易になり、実用化しやすくなります。

製作した結果、目標の20Hzが再生できない場合には、大気開放のダクト面積を小さくすることにより、最低共振周波数を下げることにし、まずは、この設計 でやってみることにしました。

設計図

空気室の配置は3次元的であり、ビジュアルに表現するには難しいので、単純な三角法で表示します。三角法は、簡単そうですが、普段図面を見慣れていない人 には見難いかもしれません。この点はご容赦ください。図面はPDFで示し ます。
また、材料は、サブロクサイズの15mm合板を1枚、300mm×1820mmおよび450mm×910mmのパイン集成材を各1枚使用します。板取は、 PDF(その1その2)に示します。図面は、W5-1611SA用のもので、実際に は、L5も取り付けられるようになっています。また、Fostexの16cm用グリルの取付ネジも装備しています。



製作

材料のカットは、MAKIZOUクラフトで実施したので、組立に2は日間、それから1週間おいて仕上に1日間という短期間で の仕上げることができました。これは、L5用に製作した期間で、後に、W5-1611SA用に改造しました。短期間で仕上げるために、外から見えない部分 に限り、通常は使用していない木ネジを使用しました。木ネジを使用しない場合は、パーツを接着 してから端金で留めて、数時間ごとに接合を繰り返さなければなりませんが、木ネジで留めることにより、次の工程に続けて進んでゆくことができました。組立 の2日間のうち、実際の作業に要した時間は8時間程度だと思います。端金の数が多ければ2本同時に製作できるので更に短時間で終えることができたはずで す。

前回、アカマツ集成材を使用して、カット後の寸法の狂いに悩まされましたので、今回は寸法の狂いの少いスーパーシナアピトン合板を要所に使用しました。こ れが正解で、製作の手間が大幅に減りました。集成材より見栄えは悪いですが、正面と側面には、木口が見えないようにしたので、さほど気になることはありま せんでした。内部構造は下記の通りです。左右対称に製作し、別な方向を向けて並べているので、内部構造が分りやすいと思います。



ところどころ木ネジの頭が見えます。ボンドが乾いた後に外そうかとも思いましたが、面倒なのでそのままにしました。10年後には、緩んで取れてくるかもし れません。手抜きをしないのならボンドの硬化後にネジや釘は外すべきだと思います。

上記の部屋の仕切りの骨組に、両サイドの壁を付けると以下のようになり ます。




アカマツ集成材のバッフルを付ける以下のようになります。設計ミスが ありましたので、第4ダクトの形状が変わってしまいました(図面は修正済みです)。ここは仕上のときに修正しました。


外見は、普通のバスレフと変わりません。

この後、修正してから仕上を実施しましたが、急いでいたので、仕上途中の写真はとっていません。表面処理は、薄めたクリアラッカーを2度塗りした後、ラッ カースプレーで仕上げました。


出来上がったのが、下の写真のうちの下側のシステムです。上側のシステムは、120mmドライバーのキャビネットを13mm用に改造したもの (TR130a型)です。TR130a型も中々の音を聞かせますが、使用したドライバーCantare製5FR MKIIの口径が、cmで明示されていないので、ミューズの方舟2008の参加規程からは外れてしまいます。



最初は、ドライバーにL5を使用し、Fostexのグリルを付けていますので、ドライバーが大きく見えますが、実際は、13cmのものです。


試聴

試聴(L5)


試聴を始めたところで、あまりの音の悪さに驚きました。『このキャビネットでこんなにもたもたした音のはずはない』と思いながらいろいろなソースを聞いて いきました。能率が極端に低いのも気になりました。そういえば、スペックでは能率はたったの83.4dB/W-mとなっています。通常はボリウムの位置は 9時くらいなのが、11時近くにしないと同じ音量になりません。相対的には低音も良く出てはいますが、とてもキレの悪い音です。とても聞く気にはなりませ んでした。
しょうがないので、音を鳴らし放しにして、他のことをしていました。ところが、2時間ほど鳴らした後に聞くと、音の悪さがさほど気にならなくなっていまし た。また、能率も多少上がり、10時前のボリウム位置で聞けるようになっていました。
このドライバーは、エージングが必要なようです。

その後も慣らしを続けていましたが、会社から帰宅して食事をしてから聞き始めるのが22時位になってしまうため、エージングが中々進みません。音もソフト で いいような、悪いような、という感じなので、結局ドライバーは、後に、TangbandのW5-1611SAに変更しました。

L5の音は段々良くなってきており、不自然さも少くなってきました。低音も20Hzに近いところまでは伸びているようです。自分の測定シス テムでは20Hzがどうなっているのか分りませんので客観的なデータを付けることはできませんが、MCAP-CRのキャビネットとしての設計は悪くないようで す。 但し、L5との組合せは自分の好みではありません。

しか し、L5は、聞くごとに良くなってきており、『もっと聞いて!』と語りかけられているようです。

L5の試聴その後 (2008/09/17)

先週は、ずっと旅行で留守にしており昨日帰宅しました。L5の音はその後どうなのか、留守中もこの作品のことが気になってしょうがありませんでした。旅行 で購入したCDを帰宅後すぐに聞いてみました。
9日間空けて帰宅した後に聞いた音は、組上げた最初の状態に近いものでした。折角慣らしが進んできたのに、暫く置くだけで元の状態に戻ってしまうとなる と、エージングが相当に必要ということになります。やはり、L5を付けた状態で出品するのは無理な感じです。L5は、鳴らしているうちに良くなってくるの ですが、慣らし初めは、能率が低く、重い音です。低音は、普通のシステム以上には出ていますが、重い低音なので、気分良く出てきません。市販システムに似 た音なのかもしれませんが、フルレンジドライバーらしい爽快感はあまりありません。勿論、こういう音の方が好みの人は少くないだろうと思います。良く表現 すれば、音造りとしてよく纏まっているし、素直な音です。振動板が小さめなので、音像も細かく再現できます。また、高域は柔らかく良く鳴ります。ですの で、このままの状態が悪いという訳では決してありませんが、リミッターがかかったような感じの鳴り方であり、また、低音の軽快感と瞬発力がありません。こ れは、自分の好みの音ではなく、残念ながら、L5は諦めるのが良さそうでした。
しかし、折角なので、今回の発表に使う候補として買ってきたCDをいくつか聞いてみました。

1. Bach - Rheinberger
Heiliggeistkirche, Heidelberg, Christoph Andreas Schaefer - Orgel(レコード番号なし:教会の自主製作CD?)
ドイツのハイデルベルグにある教会でのオルガン録音です。実際に現地で洩れ聞こえる音を聞いたところ、相当の低域まで聞こえていましたので、このCDには 相当な低音が入っているはずですが、その低音感が十分には発揮されませんでした。

2. Cantando
Bob Stenson Trio, ECM2023
旅行中に購入したドイツのオーディオ雑誌で、音楽、録音共に最高点が付けられたジャズのCDです。私は、ジャズについては、あまり分りませんので、この雑 誌の評だけを頼りに秋葉原の石丸電気で購入しました。
ピアノ、コントラバス、ドラムの構成で、音像は明確に纏まり、スピーカーの位置を通り超えた音場が再現されました。また、夫々の楽器も細かく再生され、ま るでオーディオショーの高級品を聞いているような鳴り方です。ブラインドで聞いたら、価格を言い当てるのは難しいと思います。

この同じCDを前作のTR130aでも聞いてみました。クラシック系のソースでがTR130aの欠 点はあまり気付かなかったのですが、このジャズの CDを聴くとベースの音がブンブンと少し耳障りに感じます。このブンブンした感じは、市販品のスピーカーシステムの音に似ています。

ところがL5を使用したTR130aでは、耳障りなブンブン音が感じられません。とても素直で、禁煙のジャズバーにでも行ったような生々しい音がします。 空気室の容量にゆとりを持たせた(TR130aのおよそ2倍)のが良かったのか、ドライバーが良いのか良くわかりませんが、何故かTR130bは、心地よ いジャズを聞かせます。

このCDを聴いて益々悩みました。音楽ソースによっては、L5を使用したこのシステムは既に相当なパフォーマンスを示しています。



改造とチューニング

ドライバーの変更(L5からW5-1611SAへ)




MCAP TR130b型
(防護ネットはPC用□120mmファンガード)

2008/09/23

L5を装備したTR130b型は、ジャズで素晴らしいパフォーマンスを聞かせましたが、低音域が思うように延びませんでした。そこで、本日ドライバーを W5-1611SAに交換しました。

ドライバーを変更したところイメージ通りの音が出ましたので、これで、最終決定としました。

W5-1611SAは、ネオジウムマグネットを使用し、強力な磁気回路を持っているようです。L5と比較すると低音の再現力がまるで違います。L5でも一 応、30Hz近くまでは出ていましたが、40Hz以下は少しおとなしい感じでした。W5-1611SAを使用すると、普段意識していなかったオルガンの低音が 小気味良く出てきます。未だ、完成直後で、エージングが出来ていませんが、今後、どんどん良くなってゆくと思います。

L5は、中高音が美しかったので、ソースによっては、素晴らしいマッチングを見せていました。これに対して、完成直後のW5-1611SAは、低域の再現 性は素晴らしいものの、まだ、中高域に粗さが感じられます。今後は、慣らしを進めると共に、吸音材のチューニングをしてゆこうと思います。



W5-1611SAは、現在、日本には輸入されていません。私のシステムが日本での第一号かもしれません。非常に可能性を感じるドライバーなので、今後、 輸入されることを望みます。六本木工学研究所の方は、ミューズの方舟2008で是非とも聞いて頂きたいと思います(来られないとは思いますが)。

個人輸入で、Tangbandからの正式購入は難しそうだったので、結局ドイツから輸入することになり、割高になってしまいましたが、それでも、 FE138ES-Rと比較すれば安いものでした。ということで、高額な輸入諸経費には目を瞑ることにします。

初日の試聴

まず最初に、上記のL5と同じソースを聞いてみました。
オルガンの差は圧倒的でした。L5では、レベルの低かった帯域が、もりもりと出てきます。同じCDを聞いているとは思えないほどの差です。世界が変わりま した。
ジャズについては、L5のほうが良い雰囲気が出ていました。W5-1611SAは、低音が出過ぎの感じになります。中高音の美しさもL5に負けています。 エージン グでどこまでいけるようになるか、楽しみです。

ついでに鬼太鼓座のCDも聞いてみました。もう、実物大まであと少しの感じです(ここから先が遠いのですが)。

エージング中の変化、調整などについては、実施しながら更新してゆきま す。12月14日まであと2ヵ月半ありますので、まだまだ音が変わりそうです。



補足-1(MCAP-CR型について)


MCAP-CR型スピーカーシステムの詳細は、ここに記してありますが、以下に概要を書きます。

MCAP-CR型の概要

MCAP-CR型スピーカーシステムは、スピーカードライバーを取り付ける主空気室に、副空気室を取り囲むように複数配置したマルチバスレフ型であり、並列配置 小部屋構造型スピーカーシステム(Multiple-Chamber Aligned in Parallel Speaker System: 略称MCAP-CR型スピーカーシステム)と命名した方式のシステムです。それまでには、概念が見付からなかった方式で、私が直列型マルチバスレフシステムの研 究をしていたと きに構想を練り、2005年〜2006年の年末年始休みの間に1作目を製作しました。第1号機は、TangbandのW3-517Sを使用した小型の もので、副空気室は2つでしたが、思い掛けないパフォーマンスを発揮したので、その後この方式を発展させるため、第2号機として副空気室が4つのシ ステムを製作しました。以下に、きっかけとなった4連バスレフシステム、MCAP-CR型の第1号機、第2号機の写真を示します。



quadraple-BR
MCAP-CRきっかけとなった4連バスレフ型

一番上が第1空気室でその下から順に、第2、第3、第4空気室となっています。第4ダクトは第4空気室から他の空気室を通り抜けて、天井に抜けるように なっています。2インチのドライバーで50Hzを中音域と同等のレベルで再生できましたが、60〜200Hzが落ち込んだ失敗作です。

dcap-01
MCAP-CR型の第1号機の内部構造

中央の丸穴のある部屋がドライバーを取り付ける主空気室で、上下が副空気室です。左右対称構造です。
主空気室から上下の副空気室に向けてダクトを儲け、二つの副空気室に、大気開放のダクトを夫々儲けました。この構造であれば、左の直列バスレフ型用に作成 した共振周波数の計算プログラムが使用可能だったので、設計・製作してみました。
並列配置小部屋構造(MCAP)型のはじまりは、直列配置型のマルチバスレフシステムでした。

qcap-1

MCAP-CR型の第2号機の内部構造
中央が主空気室でその周りが4つの副空気室です。夫々の副空気室には、大気開放のダクトが付いています。2号機は副空気室が、4つありましたので、直列型 バスレフの計算式は使用できず、並列型の計算式を求め、計算プログラムを新たに開発することが必要となりました。詳細は、バスレフ型スピーカー大全をご参照ください。


MCAP-CR型の試作品が非常に良いパフォーマンスだったので、技術的な特徴をまとめ、2007年3月1日に特許出願しました(特願2007- 101111)。今では、特 許の出願から既に1年以上が経過していますが、審査請求と特許料の維持には相当なコストがかかるので、審査請求するかどうかは決めていません。技術的に優 れた方式であっても、ビジネスとして優れたものでなければ、特許を維持するだけの価値がないからです。出願後3年を経過すると、見做し取下げという扱い になり、その後の権利請求はできなくなります。あと1年半の間に、審査請求するかどうか決めなければなりません。出願内容は、2008年9月25日に、特 許庁から『並列配置空気室型構造スピーカ再生装置』というタイトルで公開されています。→2012/9/14特許成立(特許第5083703号)

しかし、特許が成立した場合でも商用以外の使用には、権利が及ばないので、この方式が気に入られた方は、是非ともご自身で製作してください。MCAP-CR型の ような複雑な構造だと、製造コストが大きくなるため、ハイエンド機でなければ商業化は難しいかもしれませんが、製作の手間を厭わないアマチュアには適した 方式です。私が特許出願 した理由は、単に自分の発明の証拠を残すためです。学会に発表することができれば、そちらを利用していました。私の職業は、研 究者ではありませんので、残念ながら、学会には繋がりはありません。


補足-2 試作品(TR130a)


出品作を製作する前に、既に製作した作品を13cm用に改造してみました。MCAP-CR型は今までに7作製作しており、これは、4作目の作品です。 Fostexの12cm用に製作し、FF125Kを使用していましたが、低域に対して中高域のレベルが高過ぎたため、トーンコントロールでローブーストし なければならないものでした。もう少し中高域の能率が低く、振動板面積が大きければ、低域の音圧を稼ぎ、バランスが良くなるので、FF125Kを取り外 し、穴を拡げ Cantare 5FR MK IIを装着してみましたCantare 5FR MK IIは、樹脂製の弱いフレームで、マグネットもφ90mmと小型の頼りないドライバーです。日本に輸入しても売れないだろうと思います。裸で鳴らしても、 いまひとつの印象でした。イタリア製のへなへなドライバーとMCAP-CR型キャビネットとの相性は興味深いところでした。

Cantare 5FR MK IIは、既に製造中止で、メーカーも無くなっているようですが、Spectrum Audioに在庫があったので購入しました。"cantare"は、イタリア語で、"歌う"という意味の動詞の不定形です。EU圏外への輸出価格は、1本 63Euroでした

今回輸入したものは全て、国 内では販売していないものでしたので、これが高かったかどうかの評価はできませんが、ドイツからの輸入は結構面白い経験でした。今回調べてみて分ったこと は、スピーカー工作は、ドイツ語の情報が多いということでした。ドイツ人の気質には、自作オーディオが合うのでしょうか。


さて、改造した試作品は、下の写真の通りです。

cantare
Cantare 5FR MK II(130mm)を装着したMCAP-CR型のシステム(TR130a)

Cantare 5FR MK IIは、12cm用に設計したキャビネットの穴を拡げるだけでぴったり付きました。防護用のネットは、パソコン用の120mmファンガードです。端を少 し曲げるだけであつらえたようにぴたりと付きました。オーディオ用の部品は、通常品の何倍、何十倍もしますが、パソコン用の部品は安価です。ファンガード は1個220円でした。13cmは、非常に便利なサイズであることが分りました。これ位のガードであれば、音質への影響が少いので、オーディオ用よりも安 心して使用できます。

Cantareの最初は聞くに堪えないひどい音でしたが、鳴らしているうちに見違えるほど変身しました。高域は十分に美しく、低域はローブーストしなくて も十分な音圧で出 てきます。キャビネットの共振周波数の設計を間違えているので、設計上の最低共振周波数は59Hzですが、少くとも40Hzまでは、中域と同等のレベルで 再生します。音圧レベルはかなり低いですが一応20Hzも空振りしながら再生します(高調波のレベルのほうがずっと高く、再生しているとは云えないレベルです。耳を近付けてようやく分かる程度です)。一応、スイープ信号をピーク ホールドしてFFT解析を実施してみました。


TR130a型のスィープ信号での応答(測定については、ここを参照してください)

低音は、40Hz以下は中高音と比較して十数dB低くなっていますが、 聴感上の不足はあまり感じません。
音楽ソースを聞くと、これで十分ではないかと思えるほどのパフォーマンスを示します。鬼太鼓座では、太鼓のサイズが相当に感じられますし、『ツアラトゥス トラかく語りき』の冒頭のオルガンも問題なく再生します。大気開放ダクトの断面積は、オリジナルのままでは、□36mm×3箇所ですが、このサイズを小さ くしてゆけば、更に 最低周波数を下げてゆくことができます。予備知識なしに聞いた人は、何かインチキしているのではないかと思うことでしょう。このままでも、出品したい くらいの出来映えです。

それではMCAP-CR型の音をお楽しみにしてください。オリジナルシステム の可能性を感じていただけると思います。
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