多自由度バスレフ型の研究開発
オーディオ趣味の放言

 オーディオ趣味は、あらゆる趣味の中でも方向性がバラバラで、各人各 様の薀蓄がある。それに、言い方は悪いがインチキ情報が多くあり、心理効果だけを狙ったような製品が少くない。お小遣い程度なら問題にもならないだろう が、そういうものに数万円、数十万円、数百万円投資している人もいるかもしれない。

 自分の場合、証明されたもの以外は、先ず疑ってみることにしている。また、理由不明で高額なものは絶対に買わない。高額でも理由が明確なもの、価値訴求 がしっかりと為されているものは買うことがある。

 ここでは、そういう自分の考えていることを不定期に書いてみようと思う。ここの内容も、もっともらしく書いてはいるが、読む方は当然疑ってみるべき情報 ばかりである。考えずに信じ込むのは良くない。

オーディオ放言その2
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目次
2013/01/13
オーディオ製品の 選定基準
2012/10/16
ブラインドテスト
2012/04/19
ローコストアンプ
2012/04/04
オカルトオーディオ−その2−
2012/04/01
一気に頂上を目指す
2012/03/30
オカルトオーディオ
2011/11/04
電線病
2011/09/30
Feastrexのスピー カーユニット
2011/09/28
多自由度バスレフと多重共鳴管
2011/05/19
CBS -CRも悪くない
2011/05/16
超 低音
2011/03/21
情 報の選別
2011/01/08 低音再生
2010/10/13 バスレフ共振と気柱共振
2010/05/16 スィープ信号
2010/05/13 位相反転動作
2010/04/25 インシュレータ
2010/04/25 フルレンジスピーカー
2010/05/03 フルレンジスピーカー2
2010/05/06 フルレンジの魅力



2010/04/25
インシュレータ

 スピーカシステムは設置によって随分と音の印象が変る。自分の作ったものは、大抵最初から脚が付けてあるので、何も考えずに置いていたが、脚の下にイン シュレータを置くと大抵の場合は良くなったように感じる。

 オーディオ専用のインシュレータは、概して高級であり、数千円から数万円もすることが珍しくないので、下にある安いものを除いては購入したことがない。 こういうものに大金を投じるなら、本体やソフトに投資したほうが良いと思うので、自分が試したものをざっと紹介する。

 左の写真は比較的入手しやすいと思われる普通のインシュレータで ある。

 上側は、全て東急ハンズで購入した木っ端で、薄い円柱のもの、サイコロ状のもの、半球のものといろいろある。寸法、材質ともにいろいろな種類がある。

 下側は、左がオーディオ店で購入した専用のもの(数百円)、中央がソルボセイン(無反発ゴム)、右がFeastrexの試作品を無償で頂戴したもので、 ブビンガをピラミッド状に加工して漆を含浸したものである。
 左の写真は、オーディオ用のインシュレータではなく、石の加工品 店で入手できるものである。左から順に、アメジスト、正体不明の綺麗な石のブレンド、水晶、ブラックトルマリン、下のものは、Feastrexを訪問した ときに無償で頂いた水晶である。

 インシュレータに石を使う方法は、Feastrexで教えて頂いたもので、一般的にはあまり使われていないのではないかと思う。

 価格は、どれも小さなカップ1杯で500円程度である。

 木材のインシュレータは、悪くないが、漆を含浸したブビンガを除くとどれも、似たような印象で、音は甘い感じになる。ブビンガは流石にオーディオマニア のFeastrexが作っただけあって音が良いが、硬くて、持つと痛いし、使うとスピーカが凹んでしまう。

 ソルボセインは、秋葉原のどこかの店で購入したと思うが、これは一般品なので東急ハンズでも購入できる。スピーカに使うと音が死んでしまう印象なので使 いたいとは思わない。

 専用のものは、コイズミ無線で購入したものである。人造大理石に金属のスパイクを組合せたもので、見た目が良く、一般の木材のものよりも少し良かった。 しかし、ブビンガのものよりも甘い音であった。

 Feastrexで教えてもらった、石を使う方法は、中々具合が良い。Feastrexから頂戴したものは、音が良いが、粒が小さく、仕上が粗いのでス ピーカや台に傷か付くのが欠点である。

 左端のアメジストと右から2番目の水晶は、似た印象で、音のフォーカスが良くまとまる。左から2番目の正体不明の綺麗な石も同じような印象だが、粒が少 し大きいので、傷を付けにくく、使いやすい。

  ここに挙げた石のインシュレータの中で最も気に入ったのは、ブラックトルマリンである。音のフォーカスが更に纏まった印象で、好ましく感じた。とは云って も、他の石との差は微妙である。明日聞けば順位が入れ替わるかもしれない程度の差である。Feastrexで頂戴したもの以外は、全て御徒町にある石屋さ んで購入したものである。

 石のインシュレータは、一般的ではないが、価格が安い割に音が良いと思う。では、何故石のインシュレータが良いのか、考えてみた。
  1. 石は、概して硬く、粘りがない。また、材質が不均一で、夫々により、同じ個体でも部位により物性が異る。
  2. 石はサイズや形状がバラバラで、安定しない。このため、上記のばらばらの中から、サイズの揃ったものを選んで使うようになる。しかし、形状の 違いはどうしようもないので、諦めて運を天に任せるようになる。
  3. 形状が夫々異り、安定しないため、設置後も水平方向にはコロのように多少は動く。しかし、動いた後には、元の状態に戻る(復元性がある)。

  上記の性質は、工業的に材質、形状を揃えたインシュレータとの違いである。どれも良く無さそうだが、実は、この曖昧さが良いのではないかと思う。1番目の 性質は、工業製品でも大差なく出来るかもしれないが、3番目は重要だと思う。オーディオ用インシュレータでも、水平方向の動きにを自由にしたものがある。 しかし、こうしたものは、形状が正確に決まっているため、固有の振動周期が出来てしまう。それに対し、天然石を使ったものは、水平方向の動きにも置き方に よる方向性があるので、変位の仕方も予期できない。

 上記の考察が正しいかどうかは別としても、お小遣い程度で買えるものなので試してみるのも悪くないのではないだろうか。


2010/04/25
フルレンジスピーカー

  自分がオーディオに興味を持ったのは、1970年代半ば位のことだった。当時は、システムコンポというカテゴリーが出来たところで、色々なメーカーからシ ステムコンポが売られていた。自分のところでは、トリオ(現ケンウッド)のシステムコンポを使っていた。これはシリーズの中では高価なものだったが、コン ポの世界では、普及価格帯で、高級品とは云えないものだった。

 その当時NHKでオーディオ講座(題名失念)をやっていた。その講座は、 各メーカーが講師を派遣して説明するもので、一応メーカー名は隠していたが、バレバレだった。スピーカーはどこのメーカーだったか忘れたが、スピーカーユ ニットは細分化して2ウェイ、3ウェイ、3ウェイ、4ウェイとしてゆくほど理想に近付き高級品は全てマルチウェイというような説明があったように思う。

 そんな訳で、マルチウェイは憧れの高級品、いつかは3ウェイ、4ウェイと思っていた。

 その後大学を卒業し、就職した年に、思い切ってオンキョーのMonitor2000というスピーカーシステムを購入した。この製品は、長岡先生の推薦 マークが付いたもので、大型3ウェイ、重量は40kgfもあった。

 しかし、会社の独身寮に住んでいたので音量を上げることは出来ない。このためエージングが中々進まない。とうとう最後まで鳴らし切ることは出来なかっ た。結局、Monitor2000は、独身寮から実家に移してしまった。

  フルレンジスピーカーを本当の意味で知ってしまったのは、その少し後で、興味本位でFostexのFE166Σを買ってからである。バスレフの理屈も知ら なかったので、箱は大きめのほうが良い、という店員のデタラメなアドバイスを受けて、FE206Σと同等の容量の箱を製作して聞いてみた。この音には本当 に驚いた。Monitor2000と比べると、低音の重さでは負けるが、明瞭さ、スピード感では遥かに上回って感じた。16cmのダブルコーンのくせに、 高音は全く不足ないし、低音も十分な量感がある。何よりも、音が生きている...

 この経験以降は、フルレンジに拘るようになった。現在 フルレンジを好んで使っている人は、似たような経験の持ち主ではないだろうか。いくら理屈を並べてみても、フルレンジのほうがマルチウェイよりも有利だと いう結論にはなりにくい。フルレンジには欠点が多いので、理屈でマルチウェイを負かすのは難しいと思う。しかし、聴いてしまうと評価が変る。

 しかし、多くの評論家は、フルレンジに対して否定的である。その理由を考察してみた。
  1. フルレンジには欠点が多い。最も大きな欠点は、低音域の振動と高音域の振動を重ね合わせることで発生する高音域のドップラー効果による歪であ ろう。このような原理的な欠点を踏まえたうえで、『フルレンジが良い』という結論を導き、読者を信じさせるのは難しい。
  2. マルチウェイのほうが見た目が高級なので、売りやすい。メーカーを担がなければ商売にならないので必然的にマルチウェイを推進することにな る。
  3. そもそも知識上で、マルチウェイのほうが良いに決まっている。そう思い込んでいるので、他の結論にはなり得ない。

  長岡先生は、上記のような結論ではなく、フルレンジを推進しておられた。恐らく、先生自身の経験を重視し、理屈はそのうえに考えていったのだと思う。理屈 が完璧なら理屈だけで良いのだが、完全な理屈は殆どあり得ないので、理屈だけでは間違いを起こしやすい。長岡先生は、そのようなことを婉曲的にやんわりと 書いておられた。

 自分の場合、マルチウェイで仕上げる技術がない。一度挑戦してみたが、自分で作ったマルチウェイネットワークの音に我 慢できずに止めてしまった。フルレンジで満足してしまっているのに、その何倍もコストをかけて、時間をかけてマルチウェイを作るのは効率が悪い。寿命が無 限ならやっても良いが精々あと数十年なのでとりあえず止めている。

 家庭でフルレンジを使う場合、6畳程度なら8cmで十分な場合が多 い。12畳でも13〜16cmで十分だと思う。20cmを使うなら、20畳以上の部屋が必要ではないだろうか。狭い部屋で大型マルチウェイを使うとマルチ ウェイの欠点が目立つので、止めたほうが良いと思う。ここには書かなかったが、マルチウェイには、フルレンジに負けないくらい欠点が多いのである。


2010/05/03

フルレンジスピーカー2

 前回は、フルレンジスピーカーには欠点が多いと書いた。

  実はこのフルレンジスピーカーの欠点となる現象は、フルレンジに限らず、ウーファーでも同じことが起こる。例えば、先に書いたドップラー効果による歪も同 様である。低い周波数の上に高い周波数の振動を重ねると、高い周波数に注目して見ると、振動の原点が、低い振動に乗って移動しているので、これが高い周波 数の変調を引き起こす。しかし、ウーファーは高い周波数をカットしているので、この影響が小さく抑えられているというのが、マルチウェイを推進する立場だ ろう。理屈の上では正しいと思う。

 もうひとつの重要な問題は、振動板の振動モードの影響である。

 スピーカユニットの振動板を簡略化して書くと、Fig.Aのように、 板の中心を押したり引いたりして、板を移動させることにより、振動板の前後で空気の粗密を作って音を出す。

 しかし、空気やエッジの抵抗、振動板そのものの慣性の影響によって、Fig.B1、Fig.B2のように振動板が撓む。

 動きを速めていく、すなわち、振動数を増やしてゆくと、Fig.C1、Fig.C2のように波の数が増えてゆく。のような振動モードを、高次の振動モー ドと呼んでいる。

 フルレンジでは、高い周波数まで再生させるため、振動板が高次の振動モードになる。

 このように振動板が変形して波打っているのでは、いかにも音に悪い影響がありそうだというので、"フルレンジは良くない"と決め付ける人が出てくるのだ ろう。

  オーディオ業界には、"分割振動"という用語がある。しかし、この用語には問題点を強調するイメージが先行しているように思う。また、人によって定義が異 るようである。自分は、"分割振動"という用語がこの振動モードのことを指していると仮定しているが、この用語には違和感があるので、自分で使うことはな い。あえて、振動モードとして議論する。この振動モードという用語は、連続体の力学に使用されるのであって、振動板が分割されることはないからである。

  話を戻すと、振動板の高次の振動モードは、外側まで同じような波が出来るかのような図を描いたが、実際は、中心から外側に向かって波が進む際に減衰するの で、外側では中心よりも振幅が小さくなる。また、振動板の剛性が大きければ高次の振動モードとなる周波数が上がるので影響は少くなる。スピーカーユニット の振動板がコーン型をしているのは、剛性を高くするのが目的である。平面の振動板では、特に厚みを持たせるか、上野さんの発泡スチロールの振動板のように 円錐型に作らなければ、剛性が低くなり、この影響がもろに出てしまう。

 振動板の剛性は、厚みと弾性率が同じであれば、小さいほうが高い ので、高次の振動モードによる影響は、口径が大きいほど大きくなる。ウーファーは概して口径が大きいので、口径に応じてカットする周波数を下げなければフ ルレンジ以上に影響が大きくなってしまう可能性がある。

 振動板の剛性が高いほうが理想に近いため、小口径スピーカーユニットを愛好する人が多いという理由も合理的に推定できる。

  定性的なことばかり書いてきたが、実際には、個々の設計により、高次の振動モードの音への影響は変わるのであって、一般論として、どの方式のほうが優れて いるは云い難い。しかし、このように考えてゆくと、バックロードホーン、共鳴管や多自由度バスレフのように、小口径のフルレンジユニットを活かす箱造り は、合理性を逸脱していないと思う。
 


2010/05/06
フルレンジの魅力

 フルレンジの魅力については、長岡先生が説いて来られたこともあり、愛好者はそれなりに存在する。自分もその中の一人である。長岡先生が書かれたことを そのまま伝達してもしょうがないので、自分の考えていることを纏めてみた。

(1)マルチウェイスピーカーの多くは美しくない

 これは、個人的な好みなので、反対意見のほうが多いことは承知しているが敢えて書いてみる。

  マルチウェイスピーカーの多くは、スピーカーユニットを最重要と考えているので、キャビネットの容積が少く、結果としてバッフル面を、巨大なウーファーが 占めている。これは、狭い土地に容積率の大きな建物を建てたような感じでゆとりがない。古今東西、美しい建築物には美しい庭が伴っている。庭が無ければ、 シェーンブルン宮殿だって、ベルサイユ宮殿だって外観は大して美しくないのかもしれない。マルチウェイスピーカーシステムは、庭のない集合住宅のような感 じがして、見るからに窮屈である。

 バッフルに占めるスピーカーユニットの面積が小さなシステムだったら、そこに絵を描いたり、彫刻を施 したり、装飾を施したりすることが可能だがマルチウェイの多くは、音の発生装置にしかならない。マルチウェイはスピーカーの存在感を強調したい人に適して いる。マルチウェイでも、自作の達人は美しく仕上げるので、メーカー品では太刀打ち出来ない。

(2)マルチウェイスピーカーの音は落ち着かない

  集合住宅という落ち着かない空間に大型マルチウェイを置いても、距離をとれないので、落ち着いて楽しむことができない。オーケストラが上下に分離してしま うのである。このように設計の都合で分離した音は、本来のステレオ再生で必要な音場感を犠牲にしている。ミキシングして音量だけで左右に割り振った音楽だ けを聞くだけなら障害にならないのかもしれないが、アコースティックな音の再生には、巨大なマルチウェイが適しているとは云えない。

 但し、上に書いたように、美しく作る自作の達人の作品は、このような欠点が出ないように纏めてあるので、メーカー品だって同じように作ればいいのだが、 なかなかそうはならない。

 以上のようにマルチウェイの好きじゃないところを書いてみた。フルレンジは、上記の欠点がないように設計しやすいところが魅力のひとつである。音の良し 悪しとは別次元の話である。



2010/05/13

位相反転型動作

  バスレフ型エンクロージャは、最も普及した方式であるが、本当に研究され尽くしているかどうかは疑わしいと思っている。そうでなければ多自由度型は既に普 及しているはずである。バスレフ型については、マニアの評判が必ずしも良いという訳ではない。低域の位相特性が嫌われている。しかし、一般的には好まれて いると思うし、受け入れられていることは間違いない。

 バスレフ型は、位相反転型とも呼ば れる。私は、Bass-Reflexの翻訳が位相反転であると解釈するが、実際にそうなのかは分からない。長岡先生は、バスレフ型のことを、単なる位相反 転ではなく、ダクトを吹き鳴らす方式のこと(出展失念のためうろ覚え)だと書かれていた。長岡先生の書かれた内容は、位相反転動作と云うより、私が使用し ている用語である"Cavity Resonator"または"ヘルムホルツの共鳴箱"の動作を指している。前者の日本語は良く分からないので、とりあえず"空洞共鳴器"とでも訳しておく ことにする。私は、バスレフ動作を表現するには、この"位相反転"という用語のほうが正しいと思っている (位相反転動作のシミュレーション例は、ここにあるので参照して ください)。

  位相反転動作と、空洞共鳴動作とは、似ているようで概念が異っている。空洞共鳴動は、振動板を考慮せず、箱とダクトの固有の動作だけを論じているのに対 し、位 相反転は、振動板とダクト内の空気塊の動作の位相の違いを論じている。物理的には、振動板を含んだ強制振動を表現するのが"位相反転"動作で、振動板を無 視して自由振動を論じるのが"空洞共鳴"動作と云うことができる。 従って、スピーカーシステムとしての動作を論じるならば、"位相反転型"と称したほうが物理的には正しいと思う。

  私が提唱している多自 由度バスレフ型は、空洞共鳴の連成振動を利用するものだが、位相反転について論じるところまでは出来上がっていない。方程式は求めているので、解けば良い だけであるが、残念ながら未だ解いていない。単純な線型の連立微分方程式なので、解くことは可能であるが、追いついていないだけである。

  多自由度バスレフ型の英語名は、 "Multiple Degree of Freedom Cavity Resonator (MDOF-CR)"としている。上記のことを考慮すると英語と日本語が一致していないちぐはぐな名称ではあるが、Cavity Resonatorに相当する一般的な用語が見つからなかったので"バスレフ"という用語を使用している。"多自由度空洞共鳴器型"では、名付けた人以外 は、恐らく何のこと か分からないと思う。


 前置きが長くなってしまったが、位相反転動作は下記のようである。夫々 の図において、手が振動板、ばねが、箱内部の空気ばね、下の球がダクト内の空気塊を表す。


Fig.1 固有振動数よりも十分に低い場合の動作

 Fig.1 は、振動数が、系の固有振動数よりも十分に低い場合の動作である。手をゆっくりと上下に動かすと、球も同じように上下に動く。この状態では、手の動きと球 の動きの位相は同相である。同相であるということは、スピーカーシステムでは、振動板の背面と同相、すなわち、振動板の正面とは逆相になるので、この帯域 の周波数成分は打ち消しあってしまい、音圧が低くなる。これが、位相反転型の再生下限を下回る動作である。



Fig.2 固有振動数での動作

 Fig.2 では、系の固有振動数付近および少し高い振動数での動作を表している。手と球は別な方向に動く。これが位相反転と呼ばれる動作である。上述の結果とは逆 に、ダクトから発生する音圧が、振動板から発生する音圧に加わり、総合的な音圧が高くなる。これが位相反転型の低音補強効果である。



Fig.3 固有振動数より十分に高い振動数での動作

  手の動きを更に速めてゆくと、球が殆ど動かず、手だけが動くようになる。この周波数帯では、位相反転の動作もしていないし、空洞共鳴器としての働きもして いない。逆に言えば、位相反転型キャビネットは、ダクトからの高域成分をカットしているとも表現できる。また、比較的高い周波数帯域では補償効果がないと いうことでもある。


 このような理由により、バックロードホーン用とされるハイ上がりのユ ニットは、位相反転型には向かないとされてい る。この欠点を補うために考案したのが多自由度型バスレフのMCAP-CRであるが、標準型MCAP-CRでさえも未だ理論的な究明が不十分なので、ハイ 上がりのユニットとの相性を良くする設計は見つかっていない。

 定性的な話しかできないが、現状では、多自由度バスレフ型と相性の良いユニットは、比較的強 力な磁気回路を持ちながら、概ね200Hz以上がフラットな特性のものである。高域が強調されたユニットのキャラクタを消すことは難しい。低域のレベルの 高いソースの場合は、低域にアンプのパワーを食われるので、中高域のキャラクタが強いユニットでも、中高域が大 人しくなって、聞きやすい音になる。

  バックロードホーン向きのユニットを多自由度バスレフ型で使用する場合には、グラフィックイコライザー等で調整した ほうが良いと思う。グラフィックイコライザーを使用するというのは、インチキのようだがそうではない。グラフィックイコライザーでブーストできるのは、負 荷のかかる帯域だけで、負荷のかからない低域には効果がない。多自由度バスレフ型は、低い帯域にまで負荷をかけられるようにすることを目的としているの で、スピーカーユニットが受け持つ帯域の下限を低くすることが可能であり、結果としてローエンドを伸ばすことができる。多自由度バスレフ型は、このような 使い方には有利 である。


2010/05/16

スィープ信号

  スピーカシステムのパフォーマンスをチェックするときに、大抵の人は、ピンクノイズを使用するようだ。長岡先生がそのようにしておられたので、それに倣う 人が多いのは当然のことだろう。長岡先生は、ピンクノイズが実際の楽音に近いという理由でピンクノイズを使っておられたそうだ。

 しか し、自分はスィープ信号にこだわる。その理由は、スィープのほうがシステムの欠点が分りやすいからである。ピンクノイズでは、シグナルとノイズの違いを判 別できない。何故なら、シグナルそのものがノイズだからである。スィープは、単一周波数成分がシフトしてゆくので、歪の発見が容易である。スィープを再生 しながらマイクロフォンで拾った音のFFT画面を覗くと高調波成分が良く分る。それに、ある特定の周波数帯域で歪が多くなっているというような問題も目と 耳で確認できる。

 一番重要なのは、測定中に、耳と目を使ってシステムを観察できるということだと思う。観察することによって、問題点が クリアに分る場合が多いので、改善方法も発見しやすい。ピンクノイズでは、こういったことが一切分らないので、何となく全体的に評価することしか出来な い。長岡先生が試験しておられたときには、パソコン測定が一般的ではなかったのでそれで良かったのだが、今はいろいろなツールが使えるので、決め付けない ほうが良いと思う。


2010/10/13

バスレフ共振と気柱共振


Fig.4 バスレフ共振と気柱共振
  バスレフ共振と気柱共振は正しく理解されていないと思う。なぜなら、これらの違いについての適切な解説を見たことがないからである。また、バスレフダクト を随分長くしている作例も良く見かけるので、両者の物理的な違いが一般的に広く認識されているとは云い難いと感じている。
 そこで、気柱共振とバスレフ共振との違いを図に描いてみた。Fig.4の上側が気柱共振、下側がバスレフ共振を示したものである。
  気柱共振の図にも空気室を付けているが、気柱共振には空気室による空気ばねは必須ではない。あってもなくても気柱共振は発生する。バスレフ共振は、多自由 度バスレフ型の鍵になる物理現象なので、今更ではあるが、もう一度書くと、バスレフ共振は、『空気室ばねとダクト内空気塊の組合せによる固有振動』であ る。空気塊というのは、注目している空気の塊の中の粗密は『無視する』ということである。これが、下側の図に描いたところである。即ち、空気の塊全体が出 たり入ったりするのがバスレフ共振である。
 これに対して、上側の気柱共振では、ダクトの中の空気の粗密に着目する。勿論、Fig.4のように空気室のば ねがある状態では、部分的に粗密のある状態で全体が出たり入ったりする振動モードも同時に存在する。同様に、バスレフ共振時にも気柱共振が存在する。しか し、バスレフ共振においては、気柱共振のレベルが低いため、あまり問題にされない。
  問題は、どちらが支配的か、または、どちらに着目するかということである。厳密な話しをするのであれば、両方存在するので、両方同時に扱わなければならな いが、実用レベルでは、支配的なほうを扱えば十分である。但し、気になるかどうかは個人差があるので、気になる人は、両方考慮すべきであることは間違いな い。
 さて、長大なダクトを持つシステムは、どちらになるのかと云うと答は簡単ではない。例えば、 1mの直管ダクトを用いた場合、バスレフ共振が起きるかという問題を考えても、空気室のばねの強さにより違う動作になるので、何とも云えない。しかし、気 柱共振が、耳に付く周波数になるので、気柱共振動作は無視しないほうが良いと考えられる。

 Fig.4の上側の気柱共振の場合、最低共振周波数が、管の両端開条件(f=170/L)となるか、片端開片端閉(f=85/L)の条件にな るかの解明には詳細な解析かまたは実験が必要になる。

 ところで、先日のスピーカー再生技術研究会オフ会で発表頂いたOさんが、MCAP-CRを共鳴管に応用することを考案された。これは、自分には無かった 素晴らしい発想である。上記のことを踏まえて思い付いた点は、下記の通りである。

  気柱共振を考えるのであれば、ダクトが複数あれば、夫々の長さに応じた気柱共振周波数が得られる。この点はバスレフ共振とは異っている。但し、低い周波数 を入れても、短いダクトで空振りしてしまうと長いダクトの効果が弱くなると考えられるので、この手法を試す場合、定量的な評価は出来ていないが、共振周波 数の高いダクトは細く、低いダクトは太く設計したほうが良いのではないかと思う。
 
 Oさんの今後の研究に期待したい。

2011/01/08

低音再生

  ニュースを見ていたら、宅配おせち料理が遅配だったり、内容が見本と全然違ったりといった報道があった。youtubeで見ると問題のおせちは酷いもの だった。定価21,000円のところを10,500円で販売、これはお得、と感じさせる豪華おせちのはずが、箱の中はスカスカ、調理は不十分だった。見た 感じでは、1,000円でも買いたくないシロモノだった。

 こういうのは、オーディオにもありがちである。某掲示板を見ていたら、某国製 の真空管アンプにはスペックとまるで違うものがあるのだと書いてあった。国内で販売すると問題になるのだが、個人輸入では面倒くさい。買った人は諦めると いったところだろうか。そうは云っても、スペックの違いは測定しなければ分からないので、満足してそのまま使っている人もいるかもしれない。

  スピーカーシステムの場合は、測定が簡単ではないので、アマチュアの場合には、誤った測定のものがそのまま載っていたりする。20Hz再生なんてとんでも ないことなのだが、20Hzを実際に聞いたことがないと、誤った測定の結果をそのまま信じてしまったりする。将来的に絶対に不可能とは云えないが、3イン チのドライバーで20Hzまでフラットに再生なんていうのは、よほど長大なホーンでも使わない限り無理と思う。その音が良いか悪いかは全く別な問題でもあ る。

 音波は空気の密なところと粗いところが空間に分布し、それが進んでいくものである。振動板のような面を空中で動かすと、進む側は空 気が圧縮されて密になり、背面は引っ張られて粗になるところが動きが遅いと粗密が形成されず音が出ない。これがいわゆる空振りの状態である。実際の空振り でも、局部的には粗密ができるので、ほんの少しは音が出るのだが、それでも高調波(いわゆる歪)よりレベルが低い。

 空振りを無くそうと すると、注射器のようなシリンダのを使う必要がある。空気の漏れのない大型のシリンダの中に入り、ピストンを押すと中の空気が圧縮されて圧力が変わる。ピ ストンを20Hzで振らせば20Hzの音を造り出すことが簡単に出来るし直流だって再生可能である。しかし、これをスピーカーシステムでやったらどうなる かと云うと、空気漏れゼロの部屋に大型で空気漏れゼロの密閉式スピーカーを持ち込まない限り同じようにはならない。20Hz位は何とか可能であるが、それ でもかなり大掛かりな装置が必要になる。バスレフの場合には、ダクトが空振りしにくいようにダクト内の空気の振幅を大きくとる。こうすることによって適度 な周波数までは空振りしないで上手に再生できるが、小さすぎるダクトでは、空振りが大きく、低音補強効果は殆どない。これは物理学の話なので、無理なもの は無理なのである。

 それでも、実際に体験しないと理解出来ないようで、困ったな、と思うことが多々ある。自分が満足すればそれで良い訳だが...

2011/03/21

情報の選別

 未曽有の震災が発生し、原子力発電所も相当な被害を受けた。そこで、本当に困ったことは、デマによる混乱だったと思う。先日行きつけの寿司屋に行った ら、アルバイトの中国人がどんどの帰国してしまい人手不足なのだと聞いた。中国では相当なデマが横行し、日本で放射性物質が散乱し、危険な状態に陥ってい るとでも伝えられているのだろうか。
 デマを信じるのは、己の無学、無知を曝け出すのと同じ、恥であることを知らなければならない。中国という国は、未だに国家レベルで人民を無知にして思う ように操ろうとしているのだろうか。そうでないことを信じたい。

 デマに惑わされないためには、情報を選別する能力を身に付けることが必要である。自分は、以下のたった2つだけを心がけている。つまり、以下の要件を満 たす情報は信じない。
  1. 説明やデータ抜きで、人の知らないようなことを真実だと書いている
  2. 事実と意見を明確に区別していない
 自然科学の問題だったら、中学校までで教わることを身に付けていれば、1.には注意するだけで怪しさが分かる。高校で教わる知識があれば鬼に金棒だと 言って良い。

 2.は、言葉で書くほど簡単ではない。事実とは、既に証明されているものであり、教科書に載っているような内容であれば殆どは事実である。それに対し て、意見とは、未だ証明されていない仮説や、推論、解釈などである。ここが明確でないということは、書き手のレベルが低いか、あるいは、欺瞞の意志が明確 であると考えても良い。

 ここまで書いてきたことを例に挙げると、『アルバイトの中国人がどんどの帰国してしまい人手不足なのだと聞いた』というは、事実であり、『伝えられてい るのだろうか』とか『国家レベルで人民を無知にして思うように操ろうとしているのだろうか』というのは、意見であることが字面だけでも分かる。それに対し て、『中国は、未だに国家レベルで人民を無知にして思うように操ろうとしている』等と書けば、意見なのか事実なのか、字面では分からない。上記の2項目に 気を付けて読めば、これが意見であることは分かるが、そうしなければ分からないような書き方が良いとは言えない。

 オーディオでは、このような情報が蔓延しているように見えるし、また、そういう情報を鵜呑みにしている人がかなり多いように見える。具体的には書かない が、上記の2項目に気を付ければ、怪しさを見抜くことはそんなに難しいことではないと思う。

2011/05/16

超低音

Youtubeで千葉県に押し寄せる津波の映像を見ていたら、津波は空中の音波に例えると、超低音に相当することに気付いた。千葉県に押し寄せた津波は、 東北地方のものほどの高さはないが、周波数はほぼ同じだったと思う。映像を観ていると、海水が道路を少しずつ流れてくる。それだけ見ると大したことは無さ そうだが、問題はその長さである。海水が陸を少しずつ上がってくる。そして水位がどんどん上がってくる。ここだけ見ると直流と同じである。そして、映像に は写っていなかったが、長い間海水が押し寄せた後に同じような時間をかけてゆっくり引いていったはずである。音が高いと云えば、気圧が高くなってから低く なるまでの周期が短い(ミリセカンド単位)ことで、超低音と云えば、周期が長い(数十分の1秒から数分の1秒)ことである。

水の波の場合に周期が短いと、全体としての水位に変化はないが、津波のように長いと全体の水位が上がってしまう。そして、リアス式海岸のような地 形で、海から見て先がすぼまっているような状況では、水の逃げ場がないので、更に水位が上がる。千葉県の場合は、大地が比較的平坦なので、東北地方ほどの 被害ではなかった。

空気中の音波の場合、津波のように周期を長くするためには、音波を発生させる場所を閉空間として、壁を移動させるような大掛かりな細工が必要である。開空 間では、気圧が徐々に変化するという自然現象以外では、長周期の気圧変動を発生させることは難しいだろう。

元々、音として感じられる低音限界は20Hzと云われているので、空気で云えば、これくらいが津波に相当すると云っても良いかもしれない。20Hzは、上 記のような長周期の気圧変動よりも発生させるのははるかにラクであるがそれでも、オーディオ装置で発生させるためにはかなりの大型装置が必要である。

また、20Hzのような超低音を中高音と同等のレベルで発生させるためには、大きなエネルギが必要である。音の周期を長くする(周波数を低くする)ために は、圧力変動を生じさせる面積を大きくするか、または、振幅を大きくしなければならない。面積を大きくすれば排気量が増える。また、振幅を大きくすれば、 排気量を大きくできるのと同時に、振動する空気の動圧を上げることができる。いずれにしても、振動板やダクトが扱う空気量が増えるので、中高域よりも大き なパワーを必要とする。

2011/05/19

CBS-CRも悪くない

自分は、普通のバスレフにはずっと限界を感じてバックロードホーンや共鳴管を模索してきた。バスレフはダクトが大きく長いシステム等を作ってみたものの、 思ったほどの低音補強効果が出なかったし、補強の範囲も小さかったので、なかなかそれ以上には踏み出せないでいた。
いろいろと計算方法を試行した結果、運動方程式のまとめ方に区切りがついて、何年もかかってようやく、標準型MCAP-CRを主軸とする多自由度バスレフ 体系にたどり着いた。それでもこれがベストというものを発見するのは難しい。最近は、CBS-CRに可能性を見出して挑戦している。

標準型のMCAP-CRは左の図のように、スピーカーユニットを取り付 けた空気室を複数の副空気室が放射状に取囲む構成になっている。周囲の空気室は何個でも可能だが実質は、4副空気室が限界と思う。
中央の目玉がスピーカーユニットを示し、目玉が付いた丸が主空気室、周囲のカラフルな大きな円が、副空気室を示している。また、空気室相互の接続ダクト、 及び外部に開放したダクトを黒の太線で示している。
空気室は空気バネを構成し、ダクトは質点を構成するので、ダクトには質点に意味を含めて小さな円のマークを付けている。
中央の目玉が出たり引っ込んだりすると、目玉の付いた空気室の圧力が変動するので、その変動が、周囲のダクト内の空気塊を駆動し、更に次の空気バネを通し て外周のダクト内の空気塊を駆動する。

CBS-CRは、目玉の付いた空気室の周囲に副空気室を配置するところ まで は、標準型のMCAP-CRと同じだが、更に、副空気室に別の副空気室を繋げる。これらの副空気室は、理論上はいくらでも繋げることが可能である。

それぞれの空気 室に結合の手が4本出ることから、これをCarbon Bond Structured Cavity Resonator (CBS-CR:炭素結合型)と命名したものである。

しかし、これでは構造が複雑過ぎて実用性がない。

そこで、青い破線で一部を切り取って簡素化したものが、最も単純な CBS-CRである。

本当は、左の図の全部の形状で作りたかったのだが、寸法が大きくなるので断念したものである。

これでも、空気室は全部で4つありダクトも7本ある。

ここで、主空気室に直接繋がった空気室を、それぞれS1空気室、S2空気室と呼び、副空気室としか繋がっていない空気室をC1空気室と呼ぶことにした。

一般的には最高レベルの複雑さだと思うが、CBS-CRは、これ以上簡素化できない。

この最も簡素化したCBS-CRを模式化したのが左の図である。空気室 を板材で作成するとして、レイアウトを書くと左図の右側のように田の字型の簡単な構造になる。

平板でスピーカーエンクロージャを作成する場合には、空気室は長方形断面にするのが基本なので、CBS-CRは、都合が良い。

CBS-CRは、多自由度バスレフ型の中では製作が容易なほうである。これは最大のメリットかも知れない。

問題点は、複雑であることと、C1空気室のダクトの振動が一瞬遅れることである。また、副空気室相互の接続ダクトの動作も検証が難しい。CBS-CRは複 雑怪奇なシステムである。
それで、CBS-CRの音がどうなのかと云うとこれがなかなか悪くない。新しく製作したCBT120a型と いう、FostexのFF125Kを使ったモデルは好みの音を聞かせている。フェライト磁石の強力スピーカーユニットを使ったのでハイ上がりになって使用 に耐えないことを心配したが、軽やかで力強い低音を聞かせている。普通の聞き方だったらこれ以上のシステムは不要なのではないかと思うくらいである。この モデルは、C1空気室からのダクトを小さくして背面に向けたので、このダクトの効果が弱くなっているので、CBS-CRの特徴を強く出している訳ではな い。それでも、心配していたよう嫌な音はあまり出ないし、ベースの音程は明確に分かる。オルガンも37Hzまでは十分に出る。

効果に疑問があってもやってみることは悪くないものだと思う。


2011/09/28

多自由度バスレフと多重共鳴管

これらのシステムは、低音の再生効率を上げると共に、いかにして共振点を増やして低域のレスポンスをフラットにするかを目指したシステムである。

別なところで書いたように、楽器で例えるならば、バスレフは太鼓型、共鳴管は笛型ということが出来る。共鳴管はオルガンにも例えられるのだが、今までの 共鳴管は1本だったので、オルガンというよりも笛というほうが正しかったと思う。これが、多重になって、ようやくオルガン風のシステムになった。

多自由度バスレフと多重共鳴管の共通点は、共振点を増やしていること。これが最も大きい。相違点は、多自由度バスレフの自由度が、振動板プラスダクトの数 となり離散(デジタル)的なアプローチなのに対し、共鳴管は、質点で表されるのが振動板だけで、あとは、連続体の力学なので、自由度という言葉では括るこ とができないことである。

自分が一般化した多自由度バスレフを提唱したところ、その後、大沢さんが多自由度バスレフをベースに、多重共鳴管を開発された。これらのシステムは、外見 だけでなく、音にも大きな違いがあるので、その違いを理解し、選択してから導入したほうが良い。どちらもメリットがあるが、いずれにしても、シングルバス レフ、ダブルバスレフや、1本共鳴管システムよりは、良いと思う。これらの違いを下に纏めてみた。

多自由度バスレフと多重共鳴管の比 較表

多 自由度バスレフ
多 重共鳴管
備 考
サ イズ
低音域を伸ばす方式としては、小型の部 類。
大型化するとメリットが小さくなる。
折り返しを増やせば小型化できる。折り返 しは2回までが無難。
塩ビ管などを使用すれば軽量化できるが代わりに設置場所が大きくなる。
あくまでも設計によるので何とも云えな い。
中 高音
設計やスピーカーユニットによるが、多重 共鳴管よりは窮屈な感じになりやすい。
設計によるが、概して伸び伸びとした開放 感のある音になる。
どちらも他の方式と比較すれば良いほうだ と思う。
中 低音
設計やスピーカーユニットによるが、押し 出しが強く、パンチのある音になる。
優しくて伸び伸びした低音だが、押し出し は、多自由度バスレフより弱めである。
中低域の押出感は、よく出来たマルチウェ イやバックロードホーンには敵わないと思う。
但し、どちらも低域の音程は良く分離して聞かせる能力があり、大型のシングルバスレフより良い場合がある。
超 低音
30Hz程度までは十分な音圧で出せる が、その下は、未経験(今後の検討課題)。
30Hz以下も理論的に可能だが、中低域 が痩せないよう設計できるかは、未経験(今後の検討課題)。
どちらも爆発的な低音を出すためには、大 口径ユニットが必要になる。
設計
標準MCAP-CR型でさえ最適設計法が見付かっておらず難しいと云え ば難しいが、多少間違っても失敗が少い。
共鳴周波数の計算は難しくない。共鳴管や管入口の絞り部の断面積の最適 値は分かっていない。
バックロードホーンよりは易しいかもしれない。

多自由度バスレフも多重共鳴管もどちらも、小口径のフルレンジユニットを使用したときに、利点の多い方式である。これらの方式に20cmのような大口径の フルレンジユニットを適用したらどうなるか。やってみなければ何とも云えないところがある。Fostexの20cm限定品のような、ハイ上がりのユニット を使ったら、これらの方式でもやはりハイ上がりになるかもしれない。長岡先生は、単一共鳴管のネッシーでは、サブウーファーを使用して良い特性を出すよう にしておられた。これに多重共鳴管や多自由度バスレフを使ったらどうなるか。興味は尽きないが、実験するには、コストが掛かり過ぎる。大失敗はしないと思 うが勇気がない。多重共鳴管ならネッシーよりも良い結果が出せそうに思う。しかし、多自由度バスレフでは、長岡先生のD-58と大差ないサイズになるかも しれない。そうだったら、音で差が付かないとメリットにはならないな....20cmなら20Hzまで行けそうな気がするがどうだろうか。やってみたいが 勇気がない...多重共鳴管にしても大きくなり過ぎるし...Fostexの限定ユニットは、中高音のレベルが高すぎる感じがして冒険に踏み切れないでい る。

2011/09/30

Feastrexのスピーカーユニット

このメーカーを知っている人は少いと思う。
山梨県にある世界的なガレージメーカーで、フルレンジのスピーカーユニットを製造販売している。スピーカーユニットを鳴らすためのアンプも受注の都度特別 設計・製造している。元々は、きのこを減量にした医薬品や業務用シャンプーの製造・販売を手掛ける会社で、Feastrex事業は趣味のようなものである が、社長自身は、Feastrex最も力を注いでいるように見える。

このメーカーは、ガレージメーカーのメリットを活かし、大量生産には適しない製品を製造している。設計や品質への拘りはアマチュア並に強い。製品は一品ず つの手作りであ る。最も安価な製品は、アルニコ磁石を使った5インチユニットで、それでもペアで30万円を超える。得意なのは、励磁型のユニットであり、電磁石の芯に純 鉄(何Nかは明確でないが)を使うか、パーメンジュールを使うかで、ラインナップがいろいろとある。最も安い純鉄を芯に使ったモデルでも、ペアで50万円 弱の価格であり、何百万円もするモデルもある。

フレームは最も安いもので、アルミダイキャストの黒色皮膜処理、高価なものは砲金を機械加工で削り出し、メッキをしたり、漆を塗ったりしている。磁気回路 のカバーは、低炭素鋼を削り出した機械加工もので、磁束の流れをスムーズにするために球形の加工をしたりしている。

励磁コイルは1本ずつ手巻きである。上級製品には、四角形断面の線を使用し、効率を稼いでいる。ヴォイスコイルは良く分からない。

振動板には、人間国宝の手による和紙を使用している。この人間国宝の技能がなければ、同じ品質を維持できないのだそうだ。

これだけ書いただけで分かるくらい普通ではない製品を作っている。これらの製品は、材料が高価なうえに手がかかるので、大手メーカーでは、まず作 れない。大手メーカーが作ったら、管理費がかかるので、これより相当高価になると思う。普通の製品は、製造元の原価にオーバーヘッド等の管理費、利益を上 乗せして出荷され、更に、問屋と販売店のマージンを乗せるので、販売価格は原価の何倍にもなったりする。そういう仕事に就いたことがなければ分からない が、処分価格で30%引きとかしようとすると、定価が仕入れ値の2倍でも赤字になってしまうのである。
そのような、販売のマージンの話を別として、コストについて考えてみた。機械エンジニアの経験が長い自分の目で見ると、ローエンド品はとてもこ の価格では作れないと思う。少量生産であることを考慮して1ペアのコストをざっと見積ると、アルミダイキャストフレームが2万円、磁気回路のカバーが材料 費含みで20〜30万円、電磁石部分が10万円、振動板が5万円、その他の部品が2万円、管理費が10万円位だろうか。これだけで販売価格になってしまっ た。実際には、部品を卸しているところがオーディオマニアでコスト度外視、Feastrexは手弁当で、社長分は利益ゼロ...こんな感じではないかと思 う。機械設備の建設プロジェクトをやっていた人が実際にここのスピーカーユニットを見ると、呆れた価格設定であることが分かる。コストだけ考えると、ロー エンド品でも数千万円級のシステムに使う部品である。やっぱりオーディオは儲からないか...

音の評価は難しい。自分が所有している励磁型のローエンド品を、我が家のお客さんに聞いて頂くと、反応は完全に2つに分かれる。ひとつは目を剥いて驚愕す る人、もう ひとつは、まあいいね、悪くはない、という程度の反応の人である。どうしてこのような差が出るかは、自分には良く分からない。ひとつには、普段聞いている 音楽と聞き方の差によるのだと思う。電子楽器中心のソースでは、通常品と比較しても差が分からない場合が多いと思う。電子楽器には、口に近接して使用する マイクロ ホンも含んでも良いかもしれない。アコースティックな録音を聴くと、自分には大きな差を感じる。最も大きな差を感じるのはパイプオルガンである。パイプオ ルガンは、正弦波とその倍音の組合せに近いのだが、普通のフルレンジユニットを使ったシステムで聴くと、歪が気になるのに対し、Feastrexのスピー カーユニットで聴くと、生の 雰囲気がそのまま再現される。極端な言い方をすると、別な音楽に聴こえるほどの差がある。しかし、ポップス系のソースでは、殆どメリットを感じない。合唱 やオーケストラでは、普通のフルレンジを使ったシステとは大差を感じるが、振動板面積がモノを云うソースでは、13センチフルレンジでは、さすがに苦しい ときがある。

音を主観的に表現すると、高域の浸透力が極めて強い。これは、歪が少いことを意味しているのではないかと思う。少し離れても耳に食い込んでくる感じであ る。それでいながら、嫌ではない自然な音で、音楽がゆっくりと克明に聴こえる。Fostexのフルレンジシステムでは、耳が疲れるのが早く、大きな差を感 じる。

Feastrexの上級機は、Feastrexの箱に入れたものをコイズミ無線で聞いたことがある。ローエンド機種と比べると高域の浸透力が更に強い感じ だった。自宅で聞いたらどんな感じなんだろうかとも思うが、生憎自分は金持ちではない。

自分のシステムやFeastrexの試聴で感じたことは、特にシビアなソースを聴くと、振動板背面の音が振動板を通って聴こえるので、何らかの吸音処理が 必要である。電子音や近接マイク録音のボーカルだったら吸音処理は無いほうが良いかもしれない。Feastrexでは、吸音材を使わないので、自分とは聴 くソースや聞き方が全く違うのではないかと思う。

エンクロージャについては、組合せが難しい。
Feastrexの大型標準箱では、共振点付近での癖が強いので、紙箱吸音法を利用したほうが良いと感じた。
コイズミ無線で聞いた共鳴管は、少し癖が耳に付いた。多重共鳴管のほうが良いと思う。
田中式バックロードホーンは、アルニコ磁石型のユニットの組合せをオーディオショーで聞いたが、組み合わせていたOTLアンプはちょっと弱かったので評価 出来ないが、電源のしっかりした半導体アンプを使えば悪くないのではないかと思う。
自分が使用している多自由度バスレフの箱は、自画自賛だが相性は良いと思う。

結論として、この難解なユニットが適合するのは下記のような場合だと思う。
  1. アコースティックな録音を多く聴く
  2. オーディオよりも音楽マニアである
  3. (PAを使わない)生の音を聴く機会が多い
  4. ゆったり、ゆっくり音楽を聴きたい
  5. 設計や工作マニアではない(何度も作りなおす人には向かない。自分にも向かないかもしれない。)
  6. お金に困っていない(と云うより有り余っている位か?)
それで、この会社の製品が買得かどうか、敢えて評価すると、上記の6項目を全て満たすならば、買得でないだろうか。コスト/パフォーマンス比が最も高いの は、励磁型のローエンドモデルと思う。さすがに何百万円のモデルを導入するには勇気が必要である。

Feastrexのスピーカーユニットを導入して良かったことは、中途半端な投資をしなくなったことである。励磁のローエンドモデルではあるが、NF- 5Exを買ってから、Fostexの限定品は欲しくなくなった。導入には50万円位かかったが、そのうち投資効果が現れてくるのではないかと思う。

こういうメーカーがあっても良い。

(写真)左から Feastrex製 D-5E TypeII、NF-5Ex


2011/11/04

電線病

少しまとまった時間ができたので、部屋の整理を始めた。
自宅は都内の集合住宅で、広いとは云えないので、思い切って不要なものを廃棄することから始めた。

整理を始めてみると不要なものがざくざく出て来た。不要なもので多かったのは、以下のものである。
  1. PC関連パーツ。SCSI等の旧規格の基板、遅いネットワーク基板、遅いルータ、遅い無線LAN、PC切替器、フロッピディスクドライブ、 ケーブル等大きなゴミ袋に3つ分位。
  2. オーディオ関連パーツ。殆ど全てがケーブルで、これは大きなゴミ袋4つ分位。
両方に共通するのはケーブルで、PC関連では70%、オーディオ関連では99%がケーブルだった。

ケーブルは、何をやるにも必需品で、無ければ何も出来ない。邪魔だが何か可愛い小物である。

PC関連で多かったのは、今では殆ど使わなくなったIDEケーブル、SCSIケーブル、PC切替器のケーブル(これが異常に多い)、長いパラレルケーブル (そう言えば昔、プリンタを離れたところに置いたことがあったっけ...)、そして、電源ケーブルである。電源ケーブルは、未使用品がザクザク出てきた。 何か買い換える度に付いてくるのに古いものを捨てなかったので、新品が残ったのである。

オーディオ関連で多かったケーブルは、RCAピンコード。これは、機器に付属するへなへなの細いコードの他、5C2Vで自作したもの、3C2Vで自作した もの、スピーカーケーブル(正しく云えば電源コード)をそのまま使ったり、三つ編み四つ編みにしたもの、グラウンドを外に出したもの等(当然自作品)様々 である。義父から譲り受けた、長すぎて使えないバランスケーブルも大量に出てきた。
物量として多いのは、スピーカーケーブルで、自分で三つ編み、四つ編みにしたもの、1000〜2000円/m位の中途半端な価格帯のケーブル、アメリカの Radio Shackで買ったモンスターケーブルや似たような極太ケーブル、他には、長岡先生ご推薦のVCTケーブル等我ながら呆れた。

ケーブルを変えると音が変わるという伝説を信じ、どうにかしてコスト最小かつ効果最大を実現しようと実験したものが大量のゴミになっている。やっている当 時は、それなりに変わったと納得していたのだが、時間を置いて振り返ると本当に差があったのかどうか判別する自信が無くなっていた。そして、今では、何も 考えずに、安くて使いやすいもの、そしてなるべく細いものを最短距離で使うようになった。音が変わったかどうかの検証もしていない。

何が自分を変えたのだろうか?一番大きな理由は、アンプに手を出すようになったことではないかと思う。アンプを設計する程の知識はないが、今のパワーIC は、夫々の足に、指定のキャパシタ、抵抗を繋いでゆくだけである。これをキットにしたものが入手できるので、自分でも何とかなる。それに電源の整流回路位 は理解出来る。そんな訳で、自作と云うにはおこがましいが、自分用のものを製造するようになると、信号の経路が目で見えるようになる。

実際の半導体アンプの中身は、パワーICの他は、電源部(トランスと整流回路)、抵抗、電解コンデンサ程度で出来ている。電解コンデンサは、動作が理想通 りとはいかないので、これを変えると音が変わる。抵抗なんて、ニクロム線がコイルのようにぐるぐる巻かれたものを外から固めたものである。ツィータのロー カットキャパシタは1個何千円もするのに、アンプの中は電解コンデンサの塊である。しかも、基板の銅箔は薄くて、内部の配線なんて、極細である。メーカー 製品に至っては、メンテナンスしやすいようにソケット付きのケーブルで繋いだりする。こんな状態でも自分は音はちっとも悪くないように感じる。こう見てい くと、機器を接続するケーブルを変えても、全体には殆ど影響しないと考えたほうが合理的であると感じる。

という理由で、自分は電線病から回復しつつあるようだ。

2012/03/30

オカルトオーディオ

オカルトという用語は、論敵にインチキのレッテルを貼るために使われてきた用語のようだ。

オーディオにはオカルトと呼ばれるものは多い。大抵は、簡単に実証できる程度のインチキだが、信じてしまう人も少くない。振り込め詐欺のようなインチキに 引っかかってしまう人は多い(『多い』というのは人によって定義の異る曖昧な用語なので良くないのだが、現実に被害が起きているのであえて定性的な用語を 使用している)。

詐欺の場合には、理論の完全性は必要なく、また、全員を騙す必要はないので、騙される人だけを騙せば詐欺業が成り立つようになっている。

オカルトオーディオは、詐欺のような詐欺でないようなグレーゾーンなのかもしれない。詐欺と違うのは、売った側が目的物を引き渡すことと、買った側が満足 するか、満足しなくても不服を申し立てないということだと思う。しかし、実際には物理的な効果が全く乃至は殆どないものを効果があると称して売るのはいか がなものかと思う。

オーディオ産業にオカルト商法が成り立つ理由は、以下の通りと思う。

(1) 音は、時間と空間を必要とし、時間と共に消えてしまうので、技術的評価方法が確立されていない。
(2) 心理的要因により同じものでも違って聞こえる、いわゆる錯覚がある。
(3) 人間には所有欲がある。効果がなくても持っているだけで満足感を得られる場合は少くない。
(4) 物理学を理解しようとしない人が存在する。

自分がオカルトと思うものを具体的に列挙すると問題が発生しかねないので、抽象的に書いてみる。

例えば電気の流れ。電流は、単純にオームの法則で決まるので、抵抗値、インピーダンス値が決まれば自動的に定まる。抵抗値を下げる効果があるといっても、 十分の一オーム程度の話であれば、温度が数度変わったのと等価である。ナントカ処理などいろいろと理屈を付けられても、良く聞けばどうでもいいような理論 だったりする。

電線に高純度銀を使ったりすれば、それなりにコストがかかるし、気分的にも良いので、否定はしないが、それも価格による。1mが何十万円とか云われると、 尻込みしてしまう。自分の場合は、1m300円位が限界だろうか。

電源ケーブルは、規格で決まっているので、有名電線メーカーのJIS規格品が安心である。オーディオの場合は、余程の高級パワーアンプを使わない限り、 1.25SQでも電流許容値は12A程度で十分な余裕がある。VCTF規格のものでも耐圧は300Vあるので問題はない。規格品には、心線にタフピッチ銅 (純度99.9%いわゆる3N程度)を使っている。これに6N、7Nといった超高純度銅を使ったらどうなるだろうか?コストは跳ね上がるが...さ て...

アンプ等を自作する人は、こういう差に鈍感である。電流を上流から下流まで辿っていくと、ボトルネックがあるからである。ボトルネックの最たるものに、接 点とか、ヴォイスコイルがある。基板を使う場合には、薄い銅箔がボトルネックになる。半田付もボトルネックと云って良い。自作する人はこういうものを見て いるので、外から見える電線の差はどうでも良いのである。

お金を使わずに幸せになれる人は、オカルトオーディオとは無縁でいられる。お金を使うことで幸せになる人は、オカルトオーディオに投資しても良いのかもし れない。

2012/04/01

一気に頂上を目指す

自分のオーディオ趣味も長くなったもので、もうあと何年かで40年になろうとしている。
最初の頃は、ハイエンドオーディなんて知らなかった。小遣いにも限りがあったので、年に十数枚レコードを買うと無くなっていた。だから、1,300円の廉 価版はとても有難かった。とっくに廃刊になったFMレコパルとかを読みながら、10万円以上もする高級機を羨ましく眺めたものだった。

しかし、オーディオ機器も上を目指すときりがないことが段々と分かってきたので、最初は少しずつアップグレードしていたのが、段々不規則な買い替えになっ てきた。更に、生を多く経験し、自作に手を出すようになると、超高級機には興味が全く無くなってしまった。自分の周りのオーディオ仲間には、自分の世界が あるので、そこから別な方向を目指す姿は見ない。

最近になってPhilewebのコミュニティサイトを見ると、若い人が高級機に投資していたりして、複雑な気分になる。かつては年功序列で、年を重ねない と貧乏なのが一般的だったが、最近は、若い人が金持ちと貧乏に二極化してしまったようで、裕福な人は、何の抵抗もなく100万円位出してしまうらしい。

お金を持って一気に頂点を目指すところからオーディオ趣味を始めてしまうとどうなるのだろうか?そのまま高収入が続けば、数百万から始めて、数千万、数億 となってゆくだろうが、続かなかったときは、失敗した、と思うのだろうか?超高級機を中古市場に出しても売値は厳しいだろう。

自分は、オーディオ趣味にはエリートコースが無いのではないかと思う。投資した分だけ満足度が上がる趣味とは思えない。ローコストから始めて、工夫して、 ソフトをたくさん聞いて、生を聴いて、他の人のシステムを聴いて...と繰り返してゆくと自分の世界観が出来てくる。世界観が出来たときに、はじめて、大 きな投資をする価値が生まれるのではないかと思う。

ハイエンドオーディオを持っている人が、前回の研究会でやったように、普及価格帯のアンプで、松さんのASURAを聞いたりしたら、ぶっ飛んでしまうかも しれない。

オーディオ趣味の世界観が出来ないうちにハイエンドに走ると、いきなり頂上に着いてしまい、やることがなくなってしまいそうだ。頂上に着いてたところで終 わるのが趣味ではないかと思う。逆に云えば、上がっていくところは楽しめるが、上がってしまうと楽しめなくなる。長岡先生の名言に、『手段が目的になるの が趣味である』というのがある。いきなり頂上を目指すと、改善するというプロセスを楽しむことはできない。

自分の不完全なシステムをどう楽しむか、これが出来れば、あまり大掛かりな投資なしで、プロセスを楽しめるのではないだろうか。

2012/04/04

オカルトオーディオ−その2−

前回オカルトオーディオのことを書いたらフィードバックを頂いた。

人を幸せにするオカルトオーディオはおおいに結構!

自分もそう思う。ボッタクリではなく、何かしらの効果の説明が可能で、かつ、プラシーボ効果が高いものだったら、その人には良いと思う。人を幸せにするの には賛成だ。

メーカーとして気を付けなければいけないのは、本当はオカルトではないのに、オカルトに見えてしまう広告だと思う。オカルトに見えてしまう条件は、

(1) 実態の伴わないイメージ広告
(2) 定性的な説明だけで、定量的な説明がない
(3) 理論がデタラメか、理解していないことが明らかに分かる
(4) 音が良いと殊更強調する
(5) この良さを知らない人は可哀想だ(という印象を付ける)

といったところだろうか?

(3)に該当するものに手を出すと、他人からバカにされそうで少し怖い。
(4)、(5)は最も嫌いで、アレルギー症状がある。
現状の評価技術では、音の良さを証明するのは難しいと思っている。出来るのは、精々音が現実に近付くであろう効果の定性的な説明くらいで、音が良いという 極めて主観的な主張をするのはどうかと思う。音がいいか悪いかという主観的な評価は、あくまでも、投資する側が決めることであって、マーケティングに主観 を持ち込まれてしまうと、ある種の怪しさを感じてしまう。

個人的には、ユーザーひとりひとりが物理学(というほどではないく中学、高校の理科の範囲で十分)を顧みながら楽しめば、残るオカルトは幸せなものばかり になるかなと思う。

最もオカルトっぽくないのは、日本の有名ブランドのローエンド品だと思う。どれも、『この価格で売って良いのか?』と思うものばかりである。使いこなせば 相当なパフォーマンスを出すだろう。

2012/04/19

ローコストアンプ

 自分のブログでローコストアンプが欲しいと書いたら反響を頂いた。
 ローコストアンプが欲しいと思うようになったきっかけは、Phile-webを読んでいて、ブランド志向、高価格志向が強いと感じたことによるアンチ テーゼ、そして、スピーカー再生技術研究会のオフ会には、プリメインアンプが便利と考えていることである。

 2011年のオフ会では、マランツのPM7004(定価63,000円)というプリメインアンプを使用して、そのパフォーマンスに驚いたし、同様な意見 が複数聞かれた。しかし、いろいろなユーザーが集まっているPhile-webでは、ブランド志向、高級品志向が強く、入門機を使っているユーザーは、高 級機が欲しくてたまらない。舶来品のセパレートを使いたい、という人が多いように見える。自分はへそ曲がりなので、そういう誘導された価値観には付き合い たくない、ということで、いずれローコストアンプを導入しようと思っている。

 何故ローコストアンプなのか。それは単に自分がへそ曲がりなだけでなく、理由がある。

(1) 自分で作るより安い
 ローコストアンプは、大量生産が前提であり、部品を大量購入するので、パーツ等の原価が相当に低く抑えられるはずある。実際の仕入れ値は知らないが、例 えば、片チャンネル50W出力のステレオアンプを作ろうとすると、電源トランスには少くとも、2倍以上の容量のトランスが必要である。ノグチトランスの2 回路で出力電圧24V、電流10A(240VA)のトランスPM-2410は、9,810円する。整流回路は自分で作っても簡単だが、部品代は結構高価で ある。これをキット化したものが手に入るので、選定すると、ユニエル電子のVR-805という最大電流5Aのもので価格は6,090円である。両チャンネ ル分では余裕が少いので、左右分けて使うとこれが2個必要になる。パワーアンプも手抜きしてユニエルのキットを購入すると、定格40W、最大40Wの PAS-070が片チャンネルで4,410円。以上に加えて、ケースが5,000円位、放熱器が3,000円位を2個、端子、ヴォリウム、配線、電源ケー ブル、プラグ、フューズボックス、スイッチ、LED等を加えて4,000円位だろうか。以上はパワーアンプの部分だけで、プリアンプが入っていない。プリ アンプ抜きでの以上の単純合計は、45,810円である。ユニエルのアンプは自分でも使っており、好みなので、人にお勧めできるとは思うが、コストは決し て低くない。
 ところが、ローコストプリメインアンプの市場価格を見ると同等以上のスペックのものでも23,000円位からある。プリアンプも含んだ価格であり、コス トのうえでは太刀打ち出来ない。

(2) 高級機とローコスト機とではコスト構造が違う
 高級機は、大出力に対応するために、余裕のある電源を持っている。だから、出力インピーダンスに反比例に近い出力が得られる。トランスなどの電源部品は 非常に高価であるうえに、レギュレーションの良い特注トランスを使うので、この部分のコストが相当に高いはずである。
 高級機を試聴しないで買う人は少い。このためメーカー試聴室や販売店に試聴室を設ける必要がある。試聴室ではローコスト機も聞けるようになっている場合 があるが、これは、高級機を聴かせるついでに止むなく聞かせているはずである。云わば、こうした販売経費は、ローコスト機や中級機の分も高級機が負担して いると考えられる。
 ローコスト機は大量生産のため、部品の調達金額を抑えられるが、高級機は、スケールメリットが少なく、コスト高になる。
 高級機は、宣伝費が高い。評論家の記事も広告だし、専用のカタログも作っている。カタログのコストは意外に高いのである。
 高級機はアフターサービスが重要である。有償修理であっても固定費を考慮すれば元は取れない。ローコスト機は、修理代のほうが高くなるので、保証期間を 過ぎたら態々修理しない人も多いと思われる。修理の人件費は、高級機でも普及機でも差がないのである。アフターサービスの経費は高級機のためにあり、その コストの大部分は高級機の販売価格に上乗せされていると考えたほうが良い。

(3) ローコスト機は実際に良い
 ローコスト機であっても、左右の回路を分けたりして、高級機に遜色ない構成のものもある。端子が金メッキになっていないなど、部品の違いはあるが、音に 影響する部品ばかりではない。実際に、オフ会で使用したマランツのPM7004は、定価63,000円(実売は更に安いはず)だが、松さんのASURAを 鳴らしたときには、自分も含めてまさにハイエンドの音だと思った人が相当数いた。
 現に、ローコストアンプから100万円のアンプまで、音は変わらないという意見もある。例えば、以下のサイトでは、およそ5万円から100万円までのア ンプを比較して、差がわからなかったそうである。

価格差のあるアンプ…真空管、セパレート、デジタル、AVアンプを自宅で聴き比べしてみました

 自分は、高級機と普及機とでは、性能に差はあると考えているが、通常使う範囲で差が聞き分けられるかどうかは分からない。しかし、差を感じた経験もあ る。
 かなり以前に、マランツのPM-80a(定価6万円位)という中低級プリメインアンプからアキュフェーズのP-350(定価30万円)というパワーアン プに変え、自作のバックロードホーンを鳴らしたときには、価格相応の差を感じた。また、この古いP-350と、ユニエルのPA-036(販売完了)を使っ たコスト5万円位のアンプを比較すると、後者のほうが良く聞こえる。このような経験から、アンプには差があるとは思う。しかし、ブラインドテストではどう なのか、正直云って聞き分ける自信はない。

 自分では、アンプの差があると考えていながら、ローコストがいいと思う理由は、結局自分がケチだからだろう。また、コストの低いものを使いこなして上級 のものと同等に活用できれば得したような気がする。これもケチなせいである。

 こうした、オカルトオーディオとは対極にあるローコストアンプやローコストCDプレーヤーを使ったローコスト会も企画してみたいと思っている。さて、差 は分かるのだろうか?

2012/10/16

ブラインドテスト

ブラインドテストとはどんなものだろうか。そんな思いを持っている人は多いのではないかと思う。
そういう思いを持った10人が集まって実際にアンプのブラインドテストを実施してみた。スピーカー再生技術研究会の番外イベントで、『ガラパゴスの会』と して会場を借りて頂くことができた。

テストを始める前は、二重盲検法を想定して期待を膨らませた方もおられたようだが、自分は、方法とタイムスケジュールを考えてみて、かなり簡略化するのが 限界だろうと思っていた。

実際に実施してみて初めて分かったことは、ブラインドテストの難しさである。雑誌の記事などでは、ブラインドテストはせずに、見ながら切り替えて試聴す る。そしてある種の意図を持って結果を導き出すように読めなくもない。そして、結果は、皆が幸せになる方向に進む。過去にブラインドテストを実施して、高 級機が悪い評価になったこともあるのだが、実際にテストをしてみて、それがある意味当然のことなのだということが分かった。ブラインドテストは、セット アップが大変で、ウォーミングアップの状況も違う。恐らく、この場合、ソース選びとアンプの音量合わせが不十分だったのだと考えられる。

ブラインドテストで最も難しいのは、条件を揃えることだった。ソースが同じで、スピーカーが同じというところまでは簡単だった。しかし、難しかったのは、 音量を厳密に揃えること、そして、ウォーミングアップの条件を揃えることだった。スピーカーには、Feastrexの励磁型を使ったので、遮音性能の良い 部屋で、本調子になるまでには時間がかかった。いや、3時間位では本調子にはなっていなかったかもしれない。

再生音量は、聴感で合わせたのでは、同じにならない。これは、人間の感覚の曖昧さを証明している。結局は、テストCDの正弦波を再生してアンプの出力側電 圧をデジタルテスターで合わせたのだが、それでも、最大3.5%の出力電力誤差が出てしまった。

ウォーミングアップは更に大変で、定常状態に達したかどうかの判定ができない。かつて、温度計付のアンプが売られていたりしたが、持ち込んだアンプには付 いていなかった。A級とAB級とでは、ウォーミングアップの速度がまるで違うのだが、時間が十分にはとれなかったのでAB級動作の製品には厳しい評価に なったと思う。

結果として、今回のテストだけでは評価は不可能と結論付けたのだが、実際には、もっと条件を揃えてゆけば、更に衝撃的な結果になったのではないかと思う。

もっと面倒なのは、結果に対する外部からの批判である。実際にテストをしたことがない人は、いろいろと注文を付けたがるのだ。『それなら、そのようにテス トして結果を公表してください』と云いたくなる。

結果はこちらを 参照してください。


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