バスレフシステムのシミュレーション



MCAPシステムのシミュレーションをする前に、バスレフのシミュレー ションを実施し、検証してみたらどうなるだろうかと気になりだしました。バスレフシステムの共振周波数の計算は容易ですが、コーンの動きと、ダクトの空気 の動きの両方をシミュレーションし、実際の動きと合っていれば、検証の方法は概ね正しいことになります。


シミュレーションの方法
シミュレーションにあたっては、振動モデルを作成、運動方程式をたて、 差分法によって信号の開始から時系列に順次解くことにしました。
→詳細な計算手順はこちらをご覧ください

バスレフシステムの強制振動モデル
バスレフシステムの強制振動モデルは、下図の通りになります。


Model

バスレフシステムの強制振動モデル

ここで、各記号は下記の通りです。

ku:    スピーカーユニット単体のばね定数[N/m]
k0:    バスレフキャビネットのスピーカーユニットに対するばね定数[N/m]
m0:    スピーカーユニットの周囲の空気を含む振動系の質量[kg]
m1:    バスレフダクト内部と周囲の空気を含む振動系の質量[kg]
f(t):    アンプによる駆動力[N]
x0:    スピーカーユニットの代表点の変位[m](矢印は正の方向を示す)
x1:    ダクト内と周囲の空気の代表点の変位[m] (矢印は正の方向を示す)

このシステムの運動方程式は、(1)式の通りになります。


  Equation   (1)

ここで、下記の変数を導入すると、上記の運動方程式は、(2)式のよう に書き直されます。また、ダクト基準のキャビネットのばね定数(k10)は、スピーカーユニット基準のばね定数(k01)を用いて修正しています(詳細は、こちらを参照してください)。

a0:    スピーカーユニット振動板の有効面積[m2]
a1:    ダクトの断面積[m2]
r1:    ダクト断面積の基準面積に対する比(a1/a0)


  Equation  (2)

(2)式を中央差分形式に書き直し、行列表現したものを漸化式表現にす ると(3)式のようにな ります。


 Difference(3)

ここで、jはステップ数を表し、δは時間刻みを表します。このようにす ると、差分式は、漸化式になりますので、初期条件を設定すれば順次計算できます。初期条件は、初期変位及び初速度が夫々ゼロとします。


計算例

実際にシミュレーションするためには題材を選ぶ必要があります。題材は、私が最初に使用して感銘を受けた、FostexのFE166Σを選びます。このユ ニットは既に製造中止になっていますが、FE166Eが近いものと思います。

表1 FE166Σおよび標準バスレフ箱の仕様
規格

備考
最低共振周波数(f0)
50[Hz]

実効振動質量(m0)
0.0069[kg]
6.9[g]
実効面積(a0)
0.013273[m2]
実効振動半径=6.5[cm]から計算
スピーカーユニットのばね定数(k0)
681.00[N/m]
次式で計算
Formula
キャビネットのスピーカーユニットに対するばね定数 (k0)
713.53[N/m] 等温条件で理想気体の運動方程式から計算(正しくは断熱条 件のはずだが、バスレフの計算式は、等温条件のものが多い)
バスレフダクトの断面積(a1)
0.006600[m2]

バスレフダクトの空気の実効質量(m1)
0.001323[kg]
ダクト長さは、補正している
ダクト面積と実効振動面積との比(r1)
0.00497362
a1/a0
時間の離散ステップ幅(δ)
0.00001[s]

アンプの駆動力(F0)
0.1[N]
スピーカーユニットが破損しないであろう適当(いい加減) な値

計算式の詳細は、PDF文書をご参照ください。

因みに、このシステムのm0の共振周波数は、箱のばね定数が加わるた め、約71.6[Hz]となり、また、m1の共振周波数は、等温の条件で、約58.2[Hz]となるはずです。これらの固有振動は、パフォーマンスにに影 響を与えます。

これらの計算には、フリーウェアのOpen Office Calcを使用しました。
下に、80Hzの強制振動を加えたときの、m0の変位(青)とm1の動き(ピンク)を示します。
Simulation_Example
80Hzの強制振動を加えたときの、スピーカーユニットとダクト内の空気の 変位のシミュレーション結果

上記の結果からは、共振周波数より高い、80Hzにおいても、ダクトはコーンの動きと逆相の動きをし、負荷がかかっていることを示しています。これは、 コーンの背面と逆送になっているということで、リスナー側では同相となって、音圧が増加します。これが位相反転型という別称の所以です。
このシミュレーション結果では、コーンにアンプの負荷がかかり始めてから定常状態に達するのに、0.05秒もかかっていることが分ります(0.05秒あれ ば、音波は空気中を約17mも進みます!これは、バックロードホーンによる回り道のの遅れ(2〜4m)よりもはるかに大きい遅れです。)。フルレンジの軽 いコーンでもこれだけかかるのですから、重いウーファーだったらどうなるのか興味あるところです。これは、落ち着いたらいずれ実施したいと思います。

逆に共振周波数よりも低い、40Hzでのシミュレーション結果を下記に 示します。この条件においては、ダクトとコーンの動きが同相となり、結果として、共振周波数よりも低い周波数では、打ち消しあってしまうことが分ります。

calc
40Hzの強制振動を加えたときの、スピーカーユニットとダクト内の空気の 変位のシミュレーション結果

さて、共振周波数の58.2Hzではどうなるのか、実施したところ、解釈に苦しむ結果となりました。
位相が完全に反転し、ダクトの変位が大きくなるのかと思っていたのですが....
結果を下に示します。


calc
58.2Hzの強制振動を加えたときの、スピーカーユニットとダクト内の空 気の変位のシミュレーション結果

上図では、コーンとダクトの空気とが完全に逆相になっているようには見えません。しかし、コーンの変位に比べてダクトの空気の変位が大きくなっているよう です。理屈では、完全に逆相で共振となるはずだったのですが、そうはなっていません。これは、シミュレーションが間違っているのか、或いは、実際はこのよ うになっているのか良く分りません。

そこで、変位の速度から音圧を計算し、0.1秒間の間のダクトとコーンとに平均音圧の差を周波数20Hz〜100Hzについて計算してみました。その結果 を、下に示します。


calc
ダクトからの音圧とスピーカーユニットからの音圧との差[dB]

この結果を見ると、50Hz〜60Hzの間にかけて、ダクトの効果が高 くなっているように見えます。このことは、私のシミュレーション結果が妥当なのかと見ることもできますが、実際のところはどうなのか、良く分りません。非 常に悩ましい結果となっています。

以上がバスレフシステムのシミュレーション結果の概要です。シミュレーションしてみると他にもいろいろ出来そうです。大口径ウーファーと小口径フルレンジ との差を比較すると面白いことになりそうです。

シミュレーション用のCalcファイル及び計算手順を記した文書は、後日アップロードしたいと思います。

このシミュレーション結果に対するご感想をお聞かせ頂けると、公開した甲斐があります...

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