Project MCAP-CR

多自由度バスレフ型スピーカーシステムの研究開発

物理モデルに基くシミュレーションソフトウェア開発


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オーディオ放言

オーディオ趣味は、あらゆる趣味の中でも方向性がバラバラで、各人各様の薀蓄があります。 それに、言い方は悪いですが、似非科学のようなインチキ情報が多くあり、心理効果だけを狙ったようなオカルト製品も少くありません。 オカルト製品への投資も、お小遣い程度なら問題ないでしょうが、そういうものに数万円、数十万円、数百万円投資している人もいるかもしれません。

自分の場合、証明されたもの以外は、先ず疑ってみることにしています。 また、理由不明で高額なものは絶対に買いません。しかし、高額でも理由が明確なもの、価値訴求がしっかりと為されているものは買うこともあります。 要は、自分の尺度で価値を評価しているということです。

ここでは、そういう自分の考えていることを不定期に書いてみようと思います。 ここの内容も、もっともらしく書いてはいますが、読む方は当然疑ってみるべき情報ばかりです。 考えずに信じ込むのは良くありません。


その4(最新です/別ページ)
その3(別ページ)
その2(別ページ)
その1(下の目次をご参照ください)


オーディオ放言-その1-目次

2012/10/16
ブラインドテスト
2012/04/19
ローコストアンプ
2012/04/04
オカルトオーディオ−その2−
2012/04/01
一気に頂上を目指す
2012/03/30
オカルトオーディオ
2011/11/04
電線病
2011/09/30
Feastrexのスピーカーユニット
2011/09/28
多自由度バスレフと多重共鳴管
2011/05/19
CBS-CRも悪くない
2011/05/16
超低音
2011/03/21
情報の選別
2011/01/08 低音再生
2010/10/13 バスレフ共振と気柱共振
2010/05/16 スィープ信号
2010/05/13 位相反転動作
2010/04/25 インシュレータ
2010/04/25 フルレンジスピーカー
2010/05/03 フルレンジスピーカー2
2010/05/06 フルレンジの魅力


インシュレータ

スピーカシステムは設置によって随分と音の印象が変ります。 自分の作ったものは、大抵最初から脚が付けてあるので、何も考えずに置いていましたが、 脚の下にインシュレータを置くと大抵の場合は良くなったように感じます。

オーディオ専用のインシュレータは、概して高級であり、数千円から数万円もすることが珍しくないので、 下にある安いものを除いては購入したことがありません。 こういうものに大金を投じるなら、本体やソフトに投資したほうが良いと思うので、自分が試したものをざっと紹介します。

左の写真は比較的入手しやすいと思われる普通のインシュレータでです。

上側は、全て東急ハンズで購入した木っ端で、薄い円柱のもの、サイコロ状のもの、半球のものといろいろあります。 寸法、材質ともにいろいろな種類があります。

下側は、左がオーディオ店で購入した専用のもの(数百円)、中央がソルボセイン(無反発ゴム)、 右がFeastrexの試作品を無償で頂戴したもので、ブビンガをピラミッド状に加工して漆を含浸したものです。

左の写真は、オーディオ用のインシュレータではなく、石の加工品店で入手できるものです。 左から順に、アメジスト、正体不明の綺麗な石のブレンド、水晶、ブラックトルマリン、下のものは、Feastrexを訪問したときに無償で頂いた水晶です。

インシュレータに石を使う方法は、Feastrexで教えて頂いたもので、一般的にはあまり使われていないのではないかと思います。

価格は、どれも小さなカップ1杯で500円程度です。


木材のインシュレータは、悪くないですが、漆を含浸したブビンガを除くとどれも、似たような印象で、音は甘い感じになります。 ブビンガは流石にオーディオマニアのFeastrexが作っただけあって音が良いですが、硬くて、持つと痛いし、使うとスピーカが凹んでしまいます。

ソルボセインは、秋葉原のどこかの店で購入したと思いますが、これは一般品なので東急ハンズでも購入できます。 スピーカに使うと音が死んでしまう印象なので使いたいとは思いません。

専用のものは、コイズミ無線で購入したものです。 人造大理石に金属のスパイクを組合せたもので、見た目が良く、一般の木材のものよりも少し良く感じました。 しかし、ブビンガのものよりも甘い音に感じました。

Feastrexで教えてもらった、石を使う方法は、中々具合が良いと思います。 Feastrexから頂戴したものは、音が良いが、粒が小さく、仕上が粗いのでスピーカや台に傷か付くのが欠点です。

左端のアメジストと右から2番目の水晶は、似た印象で、音のフォーカスが良くまとまります。 左から2番目の正体不明の綺麗な石も同じような印象だが、粒が少し大きいので、傷を付けにくく、使いやすいものです。

ここに挙げた石のインシュレータの中で最も気に入ったのは、ブラックトルマリンでした。 音のフォーカスが更に纏まった印象で、好ましく感じました。 とは云っても、他の石との差は微妙で、明日聞けば順位が入れ替わるかもしれない程度の差です。 Feastrexで頂戴したもの以外は、全て御徒町ガード下にある石屋さんで購入したものです。

石のインシュレータは、一般的ではありませんが、価格が安い割に音が良いと思います。 では、何故石のインシュレータが良いのか、考えてみました。

  1. 石は、概して硬く、粘りがない。また、材質が不均一で、夫々により、同じ個体でも部位により物性が異る。
  2. 石はサイズや形状がバラバラで、安定しない。このため、上記のばらばらの中から、サイズの揃ったものを選んで使うようになる。 しかし、形状の違いはどうしようもないので、多少の差が出る。
  3. 形状が夫々異り、安定しないため、設置後も水平方向にはコロのように多少は動く。 しかし、動いた後には、元の状態に戻る(復元性がある)。

上記の性質は、工業的に材質、形状を揃えたインシュレータとの違いです。 どれも良く無さそうですが、実は、この曖昧さが良いのではないかと思います。 1番目の性質は、工業製品でも大差なく出来るかもしれませんが、3番目は重要だと思います。 オーディオ用インシュレータでも、水平方向の動きにを自由にしたものがあります。 しかし、こうしたものは、形状が正確に決まっているため、固有の振動周期が出来てしまいます。 それに対し、天然石を使ったものは、水平方向の動きにも置き方による方向性があるので、変位の仕方も予期できません。

上記の考察が正しいかどうかは別としても、お小遣い程度で買えるものなので試してみるのも悪くないでしょうか?
以上は鵜呑みにせず、道端で拾える砂利や玉砂利などで試してから導入することをお勧めします。
自分で試すところに意味があります。500円であっても、お金は大切に使いましょう。

フルレンジスピーカー

自分がオーディオに興味を持ったのは、1970年代半ば位のことでした。 当時は、システムコンポというカテゴリーが出来たところで、色々なメーカーからシステムコンポが売られていました。 自分のところでは、トリオ(現ケンウッド)のシステムコンポを使っていました。 これはシリーズの中では高価なものでしたが、コンポの世界では、普及価格帯で、高級品とは云えないものでした。

その当時NHKでオーディオ講座(題名失念)をやっていました。その講座は、各メーカーが講師を派遣して説明するもので、 一応メーカー名は隠していましたが、バレバレでした。 スピーカーはどこのメーカーだったか忘れたましたが、スピーカーユニットは細分化して、 2ウェイ、3ウェイ、3ウェイ、4ウェイ としてゆくほど理想に近付き高級品は全てマルチウェイというような説明があったように記憶しています。

そんな訳で、マルチウェイは憧れの高級品、いつかは3ウェイ、4ウェイと思っていました。

その後大学を卒業して就職した年に、思い切ってオンキョーのMonitor2000というスピーカーシステムを購入しました。 この製品は、長岡先生の推薦マークが付いたもので、大型3ウェイ、重量は40kgfもありました。

しかし、会社の独身寮に住んでいたので音量を上げることは出来ません。 このためエージングが中々進みません。 とうとう最後まで鳴らし切ることは出来ませんでした。 結局、Monitor2000は、独身寮から実家に移してしまいました。

フルレンジスピーカーを本当の意味で知ってしまったのは、その少し後で、興味本位でFostexのFE166Σを買ってからでした。 バスレフの理屈も知らなかったので、箱は大きめのほうが良い、という店員のデタラメなアドバイスを受けて、 FE206Σと同等の容量の箱を製作して聞いてみました。 この音には本当に驚きました。 Monitor2000と比べると、低音の重さでは負けますが、明瞭さ、スピード感では遥かに上回って感じました。 16cmのダブルコーンのくせに、高音は全く不足ないし、低音も十分な量感がある。 何よりも、音が生きている...

この経験以降は、フルレンジに拘るようになました。 現在フルレンジを好んで使っている人には、似たような経験の持ち主が多いと思います。
しかし、いくら理屈を並べてみても、フルレンジのほうがマルチウェイよりも有利だという結論にはなりにくいです。 フルレンジには欠点が多いので、理屈でマルチウェイを負かすのは難しいと思います。 しかし、聴いてしまうと評価が変ります。

多くの評論家は、フルレンジに対して否定的です。その理由を考察してみました。

  1. フルレンジには欠点が多い。 最も大きな欠点は、低音域の振動と高音域の振動を重ね合わせることで発生する高音域のドップラー効果による歪であろう。 このような原理的な欠点を踏まえたうえで、『フルレンジが良い』という結論を導き、読者を信じさせるのは難しい。
  2. マルチウェイのほうが見た目が高級なので、売りやすい。 メーカーを担がなければ商売にならないので必然的にマルチウェイを推進することになる。
  3. そもそも知識上で、マルチウェイのほうが良いに決まっている。そう思い込んでいるので、他の結論にはなり得ない。

長岡先生は、上記のような結論ではなく、フルレンジを推進しておられました。 恐らく、先生自身の経験を重視し、理屈はそのうえに考えていったのだと思います。 理屈が完璧なら理屈だけで良いのですが、完全な理屈は殆どあり得ないので、理屈だけでは間違いを起こしやすいものです。 長岡先生は、そのようなことを婉曲的にやんわりと書いておられました。

自分の場合、マルチウェイで仕上げる技術がありません。 一度挑戦してみましたが、自分で作ったマルチウェイネットワークの音に我慢できずに止めてしまいました。 フルレンジで満足してしまっているのに、その何倍もコストをかけて、時間をかけてマルチウェイを作るのは効率が悪いと思います。 寿命が無限ならやっても良いのですが精々あと数十年なのでその間に出来そうなことを優先しています。

家庭でフルレンジを使う場合、6畳程度なら8cmで十分な場合が多いと思います。 12畳でも13〜16cmで十分だと思います。 20cmを使うなら、20畳以上の部屋が必要ではないでしょうか。 狭い部屋で大型マルチウェイを使うとマルチウェイの欠点が目立つので、止めたほうが良いと思います。 ここには書きませんでしたが、マルチウェイには、フルレンジに負けないくらい欠点が多いのです。

フルレンジスピーカー2

前回は、フルレンジスピーカーには欠点が多いと書きました。

このフルレンジスピーカーの欠点となる現象は、フルレンジに限らず、ウーファーでも同じことが起こります。 例えば、先に書いたドップラー効果による歪も同様です。 低い周波数の上に高い周波数の振動を重ねるとき、高い周波数に注目して見ると、 振動の原点が、低い振動に乗って移動しているので、これが高い周波数の変調を引き起こします。 ウーファーは高い周波数をカットしているので、この影響が小さく抑えられている、というのが、マルチウェイを推進する立場でしょう。 理屈の上では正しいと思います。

もうひとつの重要な問題は、振動板の振動モードの影響でしょう。

スピーカユニットの振動板を簡略化して書くと、Fig.Aのように、板の中心を押したり引いたりして板を移動させることにより、 振動板の前後で空気の粗密を作って音を出します。

しかし、空気やエッジの抵抗、振動板そのものの慣性の影響によって、Fig.B1、Fig.B2のように振動板が撓みます。

動きを速めていく、すなわち、振動数を増やしてゆくと、Fig.C1、Fig.C2のように波の数が増えてゆきます。 このような振動モードを、高次の振動モードと呼びます。

フルレンジでは、高い周波数まで再生させるため、振動板が高次の振動モードになります。

このように振動板が変形して波打っているのでは、いかにも音に悪い影響がありそうだというので、 "フルレンジは良くない"と決め付ける人が出てくるのでしょう。

オーディオ業界には、"分割振動"という用語があります。 しかし、この用語には問題点を強調するイメージが先行しているように思います。 また、人によって定義が異るようです。 自分は、"分割振動"という用語がこの振動モードのことを指していると解釈していますが、 この用語には違和感があるので、自分で使うことはありません。 あえて、振動モードとして議論します。 この振動モードという用語は、連続体の力学に使用されるのであって、振動板が分割されることはないからです。

話を戻すと、振動板の高次の振動モードは、外側まで同じような波が出来るかのような図を描きましたが、 実際は、中心から外側に向かって波が進む際に減衰するので、外側では中心よりも振幅が小さくなります。 また、振動板の剛性が大きければ高次の振動モードとなる周波数が上がるので影響は少くなります。 スピーカーユニットの振動板がコーン型をしているのは、剛性を高くするのが目的です。 平面の振動板では、特に厚みを持たせるか、上野さんの発泡スチロールの振動板のように円錐型に作らなければ、 剛性が低くなり、この影響がもろに出てしまいます。

振動板は、厚みと弾性率が同じであれば、小さいほうが剛性が高いので、高次の振動モードによる影響は、 口径が大きいほど大きくなります。 ウーファーは概して口径が大きいので、口径に応じてカットする周波数を下げなければ フルレンジ以上に影響が大きくなってしまう可能性があります。

また、振動板の剛性が高いほうが理想に近いため、小口径スピーカーユニットを愛好する人が多いという理由も合理的に推定できます。

定性的なことばかり書いてきましたが、実際には、個々の設計により、高次の振動モードの音への影響は変わるので、 一般論として、どの方式のほうが優れているは云い難いのです。 このように考えてゆくと、バックロードホーン、共鳴管や多自由度バスレフのように、 小口径のフルレンジユニットを活かす箱造りは、合理性を逸脱していないと思います。

フルレンジの魅力

フルレンジの魅力については、長岡先生が説いて来られたこともあり、愛好者はそれなりに存在します。 自分もその中の一人です。長岡先生が書かれたことをそのまま伝達してもしょうがないので、自分の考えていることを纏めてみました。

(1)マルチウェイスピーカーの多くは美しくない

これは、個人的な好みなので、反対意見のほうが多いことは承知していますが敢えて書きます。

マルチウェイスピーカーの多くは、スピーカーユニットを最重要と考えているので、キャビネットの容積が少く、 結果としてバッフル面を、巨大なウーファーが占めています。 これは、狭い土地に容積率の大きな建物を建てたような感じでゆとりがありません。 古今東西、美しい建築物には美しい庭が伴っています。庭が無ければ、シェーンブルン宮殿だって、ベルサイユ宮殿だって、 外観は大して美しくないのかもしれません。 マルチウェイスピーカーシステムは、庭のない集合住宅のような感じがして、見るからに窮屈です。

バッフルに占めるスピーカーユニットの面積が小さなシステムだったら、そこに絵を描いたり、彫刻を施したり、 装飾を施したりすることが可能ですが、マルチウェイの多くは、音の発生装置にしかなりません。 マルチウェイはスピーカーの存在感を強調したい人に適していると思います。 マルチウェイでも、自作の達人は美しく仕上げるので、メーカー品では太刀打ち出来ないと思います。

(2)マルチウェイスピーカーの音は落ち着かない

自分が住んでいるような、集合住宅という落ち着かない空間に大型マルチウェイを置いても、 自分とスピーカーシステムとの距離をとれないので、落ち着いて楽しむことができません。 オーケストラが上下に分離してしまうのです。 このように設計の都合で分離した音は、本来のステレオ再生で必要な音場感を犠牲にしています。 ミキシングして音量差だけで左右に割り振った音楽だけを聞くなら障害にならないのかもしれませんが、 アコースティックな音の再生には、巨大なマルチウェイが適しているとは云えないと思います。

但し、上に書いたように、美しく作る自作の達人の作品は、このような欠点が出ないように纏めてあるので、 メーカー品だって同じように作ればいいのですが、なかなかそうはならないようです。 箱にお金を掛けても高そうに見えないので、メーカーは、箱作りには、あまり興味が無さそうです。

以上のようにマルチウェイの好きじゃないところを書いてみました。 フルレンジは、上記の欠点がないように設計しやすいところが魅力のひとつです。 但し、音の良し悪しとは別次元の話ではあります。

位相反転型動作

バスレフ型エンクロージャは、最も普及した方式ですが、本当に研究され尽くしているかどうかは疑わしいと思っています。 そうでなければ多自由度型は既に普及しているはずです。 バスレフ型については、マニアの評判が必ずしも良いという訳ではなく、低域の位相特性が嫌われています。 しかし、一般的には好まれていると思うし、受け入れられていることは間違いありません。

バスレフ型は、位相反転型とも呼ばれます。 私は、Bass-Reflexの翻訳が位相反転であると解釈していますが、実際にそうなのかは分かりません。 長岡先生は、バスレフ型のことを、単なる位相反転ではなく、 ダクトを吹き鳴らす方式のこと(出展失念のためうろ覚え)だと書かれていました。 長岡先生の書かれた内容は、位相反転動作と云うより、私が使用している用語である"Cavity Resonator" または"ヘルムホルツの共鳴箱"の動作を指しています。 後者の日本語は良く分からないので、とりあえず"空洞共鳴器"とでも訳しておくことにしましょう。 私は、長岡先生の定義とは違い、バスレフ動作を表現するには、この"位相反転"という用語のほうが正しいと思っています。

位相反転動作と、空洞共鳴動作とは、似ているようで概念が異っています。 空洞共鳴動作は、振動板を考慮せず、箱とダクトの固有の動作だけを論じているのに対し、 位相反転は、振動板とダクト内の空気塊の動作の位相の違いを論じています。 物理的には、振動板を含んだ強制振動を表現するのが"位相反転"動作で、振動板を無視して自由振動を論じるのが "空洞共鳴"動作と云うことができるでしょう。 従って、スピーカーシステムとしての動作を論じるならば、"位相反転型"と称したほうが物理的には正しいと思います。

多自由度バスレフ型の英語名は、"Multiple Degree of Freedom Cavity Resonator(MDOF-CR)"としています。 上記のことを考慮すると英語と日本語が一致していないちぐはぐな名称ですが、 Cavity Resonatorに相当する一般的な用語が見つからなかったので"バスレフ"という用語を使用しています。 "多自由度空洞共鳴器型"では、名付けた本人以外は、恐らく何のことか分からないと思います。


前置きが長くなってしまいましたが、位相反転動作は下記のようになります。それぞれの図において、手が振動板、 ばねが、箱内部の空気ばね、下の球がダクト内の空気塊を表します。


Fig.1 固有振動数よりも十分に低い場合の動作

Fig.1は、振動数が、系の固有振動数よりも十分に低い場合の動作です。 手をゆっくりと上下に動かすと、球も同じように上下に動きます。 この状態では、手の動きと球の動きの位相は同相です。 同相であるということは、スピーカーシステムでは、振動板の背面と同相、すなわち、振動板の正面とは逆相になるので、 この帯域の周波数成分は打ち消しあってしまい、音圧が低くなります。これが、位相反転型の再生下限を下回る動作です。



Fig.2 固有振動数での動作

Fig.2では、系の固有振動数付近および少し高い振動数での動作を表しています。 手と球は別な方向に動きます。これが位相反転と呼ばれる動作です。上述の結果とは逆に、ダクトから発生する音圧が、 振動板から発生する音圧に加わり、合成された音圧が高くなります。 これが位相反転型の低音補強効果でです。



Fig.3 固有振動数より十分に高い振動数での動作

手の動きを更に速めてゆくと、球が殆ど動かず、手だけが動くようになります。 この周波数帯では、位相反転の動作もしていないし、空洞共鳴器としての働きもしていません。 逆に言えば、位相反転型キャビネットは、ダクトからの高域成分をカットしているとも表現できます。 また、比較的高い周波数帯域では補償効果がないということでもあります。


このような理由により、バックロードホーン用とされるハイ上がりのユニットは、位相反転型には向かないとされています。 この欠点を補うために考案したのが多自由度型バスレフのMCAP-CRですが、標準型MCAP-CRでさえも未だ理論的な究明が不十分なので、 ハイ上がりのユニットとの相性を良くする設計は見つかっていません。 但し、多自由度バスレフ型は、一般のバスレフ型よりも低い周波数帯まで、振動板に負荷を掛けられるので、 電気信号で補正することができます。 通常のバスレフ型では、高めに設定されている共振周波数より低い周波数を電気的に補正しても、空振りが大きくなるだけなので、 再生状態は悪化してしまいます。

定性的な話しかできませんが、現状では、多自由度バスレフ型と相性の良いユニットは、 比較的強力な磁気回路を持ちながら、概ね200Hz以上がフラットな特性のものです。 高域が強調されたユニットのキャラクタを消すことは難しいです。 低域のレベルの高いソースの場合は、アンプの出力を低域が消費するので、中高域のキャラクタが強いユニットでも、 中高域が大人しくなって、聞きやすい音になります。

バックロードホーン向きのユニットを多自由度バスレフ型で使用する場合には、 グラフィックイコライザー等で調整したほうが良いと思います。 グラフィックイコライザーを使用するというのは、インチキのようですが、そうではありません。 グラフィックイコライザーでブーストできるのは、負荷のかかる帯域だけで、負荷のかからない低域には逆効果です。 多自由度バスレフ型は、低い帯域にまで負荷をかけられるようにすることを目的としているので、 スピーカーユニットが受け持つ帯域の下限を低くすることが可能であり、結果としてローエンドを伸ばすことができます。 多自由度バスレフ型は、このような使い方には有利です。

スィープ信号

スピーカシステムのパフォーマンスをチェックするときに、大抵の人は、ピンクノイズを使用するようです。 長岡先生がそのようにしておられたので、それに倣う人が多いのは当然のことでしょう。 長岡先生は、ピンクノイズが実際の楽音に近いという理由でピンクノイズを使っておられました。

しかし、自分はスィープ信号にこだわります。 その理由は、スィープのほうがシステムの欠点が分りやすいからです。 ピンクノイズでは、シグナルとノイズの違いを判別できません。 何故なら、シグナルそのものがノイズだからです。 スィープは、単一周波数成分がシフトしてゆくので、歪の発見が容易です。 スィープを再生しながらマイクロフォンで拾った音のFFT画面を覗くと高調波成分が良く分ります。 それに、ある特定の周波数帯域で歪が多くなっているというような問題も目と耳で確認できます。

一番重要なのは、測定中に、耳と目を使ってシステムを観察できるということだと思います。 観察することによって、問題点がクリアに分る場合が多いので、改善方法も発見しやすいです。 ピンクノイズでは、こういったことが一切分らないので、何となく全体的に評価することしか出来ません。 長岡先生が試験しておられたときには、パソコン測定が一般的ではなかったのでそれで良かったのですが、 今はいろいろなツールが使えるので、決め付けないほうが良いと思います。

バスレフ共振と気柱共振


Fig.4 バスレフ共振と気柱共振
 

バスレフ共振と気柱共振は正しく理解されていないと思います。 なぜなら、これらの違いについての適切な解説を見たことがないからです。 バスレフダクトを随分長くしている作例も良く見かけるので、 両者の物理的な違いが一般的に広く認識されているとは云い難いと感じています。
そこで、気柱共振とバスレフ共振との違いを図に描いてみました。 Fig.4の上側が気柱共振、下側がバスレフ共振を示したものです。
  気柱共振の図にも空気室を付けていますが、気柱共振には空気室による空気ばねは必須ではありません。 あってもなくても気柱共振は発生します。 バスレフ共振は、多自由度バスレフ型の鍵になる物理現象なので、今更ですが、もう一度書くと、バスレフ共振は、 『空気室ばねとダクト内空気塊の組合せによる固有振動』です。 空気塊というのは、注目している空気の塊の中の粗密は『無視する』ということです。 これが、下側の図に描いたところです。即ち、空気の塊全体が出たり入ったりするのがバスレフ共振です。
これに対して、上側の気柱共振では、ダクトの中の空気の粗密に着目します。 勿論、Fig.4のように空気室のばねがある状態では、部分的に粗密のある状態で全体が出たり入ったりする振動モードも 同時に存在します。 同様に、バスレフ共振時にも気柱共振が存在します。 しかし、バスレフ共振においては、気柱共振のレベルが低いため、あまり問題にされません。
問題は、どちらが支配的か、または、どちらに着目するかということです。 厳密な話しをするのであれば、両方存在するので、両方同時に扱わなければならないのですが、 実用レベルでは、支配的なほうを扱えば十分です。 但し、気になるかどうかは個人差があるので、気になる人は、両方考慮すべきであることは間違いありません。

さて、長大なダクトを持つシステムは、どちらになるのかと云うと答は簡単ではありません。 例えば、1mの直管ダクトを用いた場合、バスレフ共振が起きるかという問題を考えても、 空気室のばねの強さにより違う動作になるので、何とも云えません。 しかし、気柱共振が、耳に付く周波数になるので、気柱共振動作は無視しないほうが良いと考えられます。

Fig.4の上側の気柱共振の場合、最低共振周波数が、管の両端開条件(f=170/L)となるか、 片端開片端閉(f=85/L)の条件になるかの解明には詳細な解析かまたは実験が必要になります。

ところで、先日のスピーカー再生技術研究会オフ会で発表頂いたOさんが、MCAP-CRを共鳴管に応用することを考案されました。 これは、自分には無かった素晴らしい発想です。上記のことを踏まえて思い付いた点は、下記の通りです。

気柱共振を考えるのであれば、ダクトが複数あれば、夫々の長さに応じた気柱共振周波数が得られます。 この点はバスレフ共振とは異っています。 但し、低い周波数を入れても、短いダクトで空振りしてしまうと長いダクトの効果が弱くなると考えられるので、 この手法を試す場合、定量的な評価は出来ていませんが、共振周波数の高いダクトは細く、 低いダクトは太く設計したほうが良いのではないかと思います。

Oさんの今後の研究に期待します。

低音再生

ニュースを見ていたら、宅配おせち料理が遅配だったり、内容が見本と全然違ったりといった報道がありました。 youtubeで見ると問題のおせちは酷いものでした。 定価21,000円のところを10,500円で販売、これはお得、と感じさせる豪華おせちのはずが、箱の中はスカスカ、 調理は不十分でした。 見た感じでは、1,000円でも買いたくないシロモノでした。

こういうのは、オーディオにもありがちです。 某掲示板を見ていたら、某国製の真空管アンプにはスペックとまるで違うものがあるのだと書いてありました。 国内で販売すると問題になるのですが、個人輸入では、クレームを付けるのも面倒です。 買った人は諦めるといったところでしょうか。 そうは云っても、スペックの違いは測定しなければ分からないので、満足してそのまま使っている人もいるかもしれません。

スピーカーシステムの場合は、測定が簡単ではないので、アマチュアの場合には、誤った測定のものがそのまま載っていたりします。 20Hz再生なんてとんでもないことなのですが、20Hzを実際に聞いたことがないと、誤った測定の結果をそのまま信じてしまったりします。 将来的に絶対に不可能とは云えませんが、3インチのドライバーで20Hzまでフラットに再生なんていうのは、 よほど長大なホーンでも使わない限り無理でしょう。 その音が良いか悪いかは全く別な問題でもあります。

音波は空気の密なところと粗いところが空間に分布し、それが進んでいくものです。 振動板のような面を空中で動かすと、進む側は空気が圧縮されて密になり、 背面は引っ張られて粗になるところが動きが遅いと粗密が形成されず音が出ません。 これがいわゆる空振りの状態です。 実際の空振りでも、局部的には粗密ができるので、ほんの少しは音が出ますが、 それでも高調波(いわゆる歪)よりレベルが低いのです。

空振りを無くそうとすると、注射器のようなシリンダのを使う必要があります。 空気の漏れのない大型のシリンダの中に入り、ピストンを押すと中の空気が圧縮されて圧力が変わります。 ピストンを20Hzで振らせば20Hzの音を造り出すことが簡単に出来るし直流(0Hz)だって再生可能です。 しかし、これをスピーカーシステムでやったらどうなるかと云うと、 空気漏れゼロの部屋に大型で空気漏れゼロの密閉式スピーカーを持ち込まない限り同じようにはなりません。 20Hz位は何とか可能ですが、それでもかなり大掛かりな装置が必要になります。 バスレフの場合には、ダクトが空振りしにくいようにダクト内の空気の振幅を大きくとります。 こうすることによって適度な周波数までは空振りしないで上手に再生できますが、小さすぎるダクトでは、 空振りが大きく、低音補強効果は殆どありません。 これは物理学の話なので、無理なものは無理なのです。

それでも、実際に体験しないと理解出来ないようで、困ったな、と思うことが多々あります。 自分が満足すればそれで良い訳なのですが...

情報の選別

未曽有の震災が発生し、原子力発電所も相当な被害を受けました。 そこで、本当に困ったことは、デマによる混乱だったと思います。 先日行きつけの寿司屋に行ったら、アルバイトの中国人がどんどの帰国してしまい人手不足なのだと聞きました。 中国では相当なデマが横行し、日本で放射性物質が散乱し、危険な状態に陥っているとでも伝えられているのでしょうか。
デマを信じるのは、己の無学、無知を曝け出すのと同じ、恥であることを知らなければなりません。 中国という国は、未だに国家レベルで人民を無知にして思うように操ろうとしているのでしょうか。 そうでないことを信じたいと思います。

デマに惑わされないためには、情報を選別する能力を身に付けることが必要です。 自分は、以下のたった2つだけを心がけています。 つまり、以下の要件を満たす情報は信じないということです。

  1. 説明やデータ抜きで、人の知らないようなことを真実だと書いている
  2. 事実と意見を明確に区別していない

自然科学の問題だったら、中学校までで教わることを身に付けていれば、1.には注意するだけで怪しさが分かります。 高校で教わる知識があれば鬼に金棒だと言って良いでしょう。

2.は、言葉で書くほど簡単ではありません。 事実とは、既に証明されているものであり、教科書に載っているような内容であれば殆どは事実です。 それに対して、意見とは、未だ証明されていない仮説や、推論、解釈などを云います。 ここが明確でないということは、書き手のレベルが低いか、あるいは、欺瞞の意志が明確であると考えても良いでしょう。

ここまで書いてきたことを例に挙げると、『アルバイトの中国人がどんどの帰国してしまい人手不足なのだと聞いた』というは、 事実であり、『伝えられているのだろうか』とか『国家レベルで人民を無知にして思うように操ろうとしているのだろうか』 というのは、意見であることが字面だけでも分かります。 それに対して、『中国は、未だに国家レベルで人民を無知にして思うように操ろうとしている』等と書けば、 意見なのか事実なのか、字面では分かりません。 上記の2項目に気を付けて読めば、これが意見であることは分かりますが、 そうしなければ分からないような書き方が良いとは言えません。

オーディオでは、このような情報が蔓延しているように見えるし、また、 そういう情報を鵜呑みにしている人がかなり多いように見えます。 具体的には書きませんが、上記の2項目に気を付ければ、怪しさを見抜くことはそんなに難しいことではないと思います。

超低音

Youtubeで千葉県に押し寄せる津波の映像を見ていたら、津波は空中の音波に例えると、超低音に相当することに気付きました。 千葉県に押し寄せた津波は、東北地方のものほどの高さはないが、周波数はほぼ同じだと思います。 映像を観ていると、海水が道路を少しずつ流れてきます。それだけ見ると大したことは無さそうですが、問題はその長さです。 海水が陸を少しずつ上がってきます。 そして水位がどんどん上がってきます。ここだけ見ると直流と同じです。 そして、映像には写っていませんでしたが、長い間海水が押し寄せた後に同じような時間をかけてゆっくり引いていったはずです。 音が高いと云えば、気圧が高くなってから低くなるまでの周期が短い(ミリセカンド単位)ことで、超低音と云えば、 周期が長い(数十分の1秒から数分の1秒)ことです。

水の波の場合に周期が短いと、全体としての水位に変化はありませんが、津波のように周期が長いと全体の水位が上がってしまいます。 そして、リアス式海岸のような地形で、海から見て先がすぼまっているような状況では、水の逃げ場がないので、更に水位が上がります。 千葉県の場合は、大地が比較的平坦なので、東北地方ほどの被害ではありませんでした。

空気中の音波の場合、津波のように周期を長くするためには、音波を発生させる場所を閉空間として、 壁を移動させるような大掛かりな細工が必要です。 開空間では、気圧が徐々に変化するという自然現象以外では、長周期の気圧変動を発生させることは難しいでしょう。

元々、音として感じられる低音限界は20Hzと云われているので、空気で云えば、 これくらいが津波に相当すると云っても良いかもしれません。 20Hzは、上記のような長周期の気圧変動よりも発生させるのははるかにラクですが、それでも、 オーディオ装置で発生させるためにはかなりの大型化が必要になります。

また、20Hzのような超低音を中高音と同等のレベルで発生させるためには、大きなエネルギが必要です。 音の周期を長くする(周波数を低くする)ためには、圧力変動を生じさせる面積を大きくするか、または、 振幅を大きくしなければなりません。 面積を大きくすれば排気量が増えます。 また、振幅を大きくすれば、排気量を大きくできるのと同時に、振動する空気の動圧を上げることができます。 いずれにしても、振動板やダクトが扱う空気量が増えるので、中高域よりも大きなパワーを必要とします。

CBS-CRも悪くない

自分は、普通のバスレフにはずっと限界を感じてバックロードホーンや共鳴管を模索してきました。 バスレフはダクトが大きく長いシステム等を作ってみたものの、思ったほどの低音補強効果が出なかったし、 補強の範囲も小さかったので、なかなかそれ以上には踏み出せないでいました。
いろいろと計算方法を試行した結果、運動方程式のまとめ方に区切りがついて、何年もかかってようやく、 標準型MCAP-CRを主軸とする多自由度バスレフ体系にたどり着きました。 それでもこれがベストというものを発見するのは難しいと感じています。 最近は、CBS-CRに可能性を見出して挑戦しています。

標準型のMCAP-CRは左の図のように、スピーカーユニットを取り付けた空気室を複数の副空気室が放射状に取囲む構成に なっています。 周囲の空気室は何個でも可能ですが実質は、4副空気室が限界と思います。
中央の目玉がスピーカーユニットを示し、目玉が付いた丸が主空気室、周囲のカラフルな大きな円が、副空気室を示しています。 また、空気室相互の接続ダクト、及び外部に開放したダクトを黒の太線で示しています。
空気室は空気バネを構成し、ダクトは質点を構成するので、ダクトには質点に意味を含めて小さな円のマークを付けています。
中央の目玉が出たり引っ込んだりすると、目玉の付いた空気室の圧力が変動するので、その変動が、 周囲のダクト内の空気塊を駆動し、更に次の空気バネを通して外周のダクト内の空気塊を駆動します。


CBS-CRは、目玉の付いた空気室の周囲に副空気室を配置するところまでは、標準型のMCAP-CRと同じですが、 更に、副空気室に別の副空気室を繋げています。 これらの副空気室は、理論上はいくらでも繋げることが可能です。

それぞれの空気室に結合の手が4本出ることから、これをCarbon Bond Structured Cavity Resonator(CBS-CR:炭素結合型) と命名したものです。

しかし、これでは構造が複雑過ぎて実用性がありません。


そこで、青い破線で一部を切り取って簡素化したものが、最も単純なCBS-CRです。

本当は、左の図の全部の形状で作りたかったのですが、寸法が大きくなるので断念しました。

これでも、空気室は全部で4つありダクトも7本あります。

ここで、主空気室に直接繋がった空気室を、それぞれS1空気室、S2空気室と呼び、副空気室としか繋がっていない空気室を C1空気室と呼ぶことにしました。

一般的には最高レベルの複雑さだと思いますが、CBS-CRは、これ以上簡素化できません。


この最も簡素化したCBS-CRを模式化したのが左の図です。 空気室を板材で作成するとして、レイアウトを書くと左図の右側のように田の字型の簡単な構造になります。

平板でスピーカーエンクロージャを作成する場合には、空気室は長方形断面にするのが基本なので、CBS-CRは、都合が良いのです。

CBS-CRは、多自由度バスレフ型の中では製作が容易なほうです。これは最大のメリットかも知れません。

問題点は、複雑であることと、C1空気室のダクトの振動が一瞬遅れることです。 また、副空気室相互の接続ダクトの動作も検証が難しく、これもデメリットになります。CBS-CRは複雑怪奇なシステムでもあります。

それで、CBS-CRの音がどうなのかと云うとこれがなかなか悪くないのです。 新しく製作したCBT120a型という、FostexのFF125Kを使ったモデルは好みの音を聞かせています。 フェライト磁石の強力スピーカーユニットを使ったのでハイ上がりになって使用に耐えないことを心配したましたが、 軽やかで力強い低音を聞かせています。 普通の聞き方だったらこれ以上のシステムは不要なのではないかと思うくらいです。 このモデルは、C1空気室からのダクトを小さくして背面に向けたので、このダクトの効果が弱くなっており、 CBS-CRの特徴を強く出している訳ではありません。 それでも、心配していたよう嫌な音はあまり出ないし、ベースの音程は明確に分かります。オルガンも37Hzまでは十分に出ます。

効果に疑問があってもやってみることは悪くないものだと思いました。

多自由度バスレフと多重共鳴管

これらのシステムは、低音の再生効率を上げると共に、 いかにして共振点を増やして低域のレスポンスをフラットにするかを目指したシステムです。

別なところで書いたように、楽器で例えるならば、バスレフは太鼓型、共鳴管は笛型ということが出来ます。 共鳴管はオルガンにも例えられるのですが、今までの共鳴管は1本だったので、オルガンというよりも笛というほうが正しかったと思います。 これが、多重になって、ようやくオルガン風のシステムになりました。

多自由度バスレフと多重共鳴管の共通点は、共振点を増やしていることです。 相違点は、多自由度バスレフの自由度が、振動板プラスダクトの数となり離散(デジタル)的なアプローチなのに対し、 共鳴管は、質点で表されるのが振動板だけで、あとは、連続体の力学なので、自由度という言葉では括ることができないことです。

自分が一般化した多自由度バスレフを提唱したところ、その後、大沢さんが多自由度バスレフをベースに、多重共鳴管を開発されました。 これらのシステムは、外見だけでなく、音にも大きな違いがあるので、その違いを理解し、選択してから導入したほうが良いと思います。 どちらもメリットがありますが、いずれにしても、シングルバスレフ、ダブルバスレフや、1本共鳴管システムよりは、良いと思います。 これらの違いを下に纏めました。

多自由度バスレフと多重共鳴管の比較表

多自由度バスレフ 多重共鳴管 備考
サイズ

低音域を伸ばす方式としては、小型の部類。
大型化するとメリットが小さくなる。

折り返しを増やせば小型化できる。折り返しは2回までが無難。
塩ビ管などを使用すれば軽量化できるが代わりに設置場所が大きくなる。

あくまでも設計によるので何とも云えない。

中高音

設計やスピーカーユニットによるが、多重共鳴管よりは窮屈な感じになりやすい。

設計によるが、概して伸び伸びとした開放感のある音になる。

どちらも他の方式と比較すれば良いほうだと思う。

中低音

設計やスピーカーユニットによるが、押し出しが強く、パンチのある音になる。

優しくて伸び伸びした低音だが、押し出しは、多自由度バスレフより弱めである。

中低域の押出感は、よく出来たマルチウェイやバックロードホーンには敵わないと思う。
但し、どちらも低域の音程は良く分離して聞かせる能力があり、大型のシングルバスレフより良い場合がある。

超低音

30Hz程度までは十分な音圧で出せるが、その下は、未経験(今後の検討課題)。

30Hz以下も理論的に可能だが、中低域が痩せないよう設計できるかは、未経験(今後の検討課題)。

どちらも爆発的な低音を出すためには、大口径ユニットが必要になる。

設計

標準MCAP-CR型でさえ最適設計法が見付かっておらず難しいと云えば難しいが、多少間違っても失敗が少い。

共鳴周波数の計算は難しくない。共鳴管や管入口の絞り部の断面積の最適値は分かっていない。

バックロードホーンよりは易しいかもしれない。

多自由度バスレフも多重共鳴管もどちらも、小口径のフルレンジユニットを使用したときに、利点の多い方式です。 これらの方式に20cmのような大口径のフルレンジユニットを適用したらどうなるか。 やってみなければ何とも云えません。Fostexの20cm限定品のような、ハイ上がりのユニットを使ったら、 これらの方式でもやはりハイ上がりになるかもしれません。 長岡先生は、単一共鳴管のネッシーでは、サブウーファーを使用して良い特性を出すようにしておられました。 これに多重共鳴管や多自由度バスレフを使ったらどうなるか。 興味は尽きませんが、実験するには、コストが掛かり過ぎます。 大失敗はしないと思いますが勇気がありません。 多重共鳴管ならネッシーよりも良い結果が出せそうに思います。 しかし、多自由度バスレフでは、長岡先生のD-58と大差ないサイズになるかもしれません。 そうだったら、音で差が付かないとメリットにはならないな....
20cmなら20Hzまで行けそうな気がしますがどうでしょうか。 やってみたいが勇気がなありません...
多重共鳴管にしても大きくなり過ぎるし...
Fostexの限定ユニットは、中高音のレベルが高すぎる感じがして冒険に踏み切れないでいます。

Feastrexのスピーカーユニット

このメーカーを知っている人は少いと思います。
山梨県にある世界的なガレージメーカーで、フルレンジのスピーカーユニットを製造販売しています。 スピーカーユニットを鳴らすためのアンプも受注の都度特別設計・製造してます。 元々は、きのこを原料にした医薬品や業務用シャンプーの製造・販売を手掛ける会社で、Feastrex事業は趣味のようなものですが、 社長自身は、Feastrex事業に最も力を注いでいるように見えます。

このメーカーは、ガレージメーカーのメリットを活かし、大量生産には適しない製品を製造しています。 設計や品質への拘りはアマチュア並に強く、製品は一品ずつの手作りです。 最も安価な製品は、アルニコ磁石を使った5インチユニットで、それでもペアで30万円を超えます。 得意なのは、励磁型のユニットであり、電磁石の芯に純鉄(何Nかは明確でないが)を使うか、パーメンジュールを使うかで、 ラインナップがいろいろとあります。 最も安い純鉄を芯に使ったモデルでも、ペアで50万円弱の価格で、何百万円もするモデルもあります。

フレームは最も安いもので、アルミダイキャストの黒色皮膜処理、高価なものは砲金を機械加工で削り出し、 メッキをしたり、漆を塗ったりしています。 磁気回路のカバーは、低炭素鋼を削り出した機械加工もので、磁束の流れをスムーズにするために球形の加工をしたりしています。

励磁コイルは1本ずつ手巻きで作ります。 上級製品には、四角形断面の線を使用し、効率を稼いでいます。 ヴォイスコイルについては良く分かりません。

振動板には、人間国宝の手による和紙を使用しています。 この人間国宝の技能がなければ、同じ品質を維持できないのだそうです。

これだけ書いただけで分かるくらい普通ではない製品を作っています。 これらの製品は、材料が高価なうえに手がかかるので、大手メーカーでは、まず作れないでしょう。 大手メーカーが作ったら、管理費がかかるので、これより相当高価になると思います。 普通の製品は、製造元の原価にオーバーヘッド等の管理費、利益を上乗せして出荷され、更に、問屋と販売店のマージンを乗せるので、 販売価格は原価の何倍にもなります。 そういう仕事に就いたことがなければ分からないことですが、処分価格で30%引きとかしようとすると、 定価が仕入れ値の2倍でも赤字になってしまうのです。
そのような、販売のマージンの話を別として、コストについて考えてみました。 機械エンジニアの経験が長い自分の目で見ると、ローエンド品はとてもこの価格では作れないと思います。 少量生産であることを考慮して1ペアのコストをざっと見積ると、アルミダイキャストフレームが2万円、 磁気回路のカバーが材料費含みで20〜30万円、電磁石部分が10万円、振動板が5万円、その他の部品が2万円、 管理費が10万円位でしょうか。 これだけで販売価格になってしまいました。 実際には、部品を卸しているところがオーディオマニアでコスト度外視、Feastrexは手弁当で、社長分は利益ゼロ... こんな感じではないかと思います。 機械設備の建設プロジェクトをやっていた人が実際にここのスピーカーユニットを見ると、呆れた価格設定であることが分かります。 コストだけ考えると、ローエンド品でも数千万円級のシステムに使う部品でしょう。 やっぱりオーディオは儲からないか...

音の評価は簡単ではありません。自分が所有している励磁型のローエンド品を、我が家のお客さんに聞いて頂くと、 反応は完全に2つに分かれます。
ひとつは目を剥いて驚愕する人、もうひとつは、まあいいね、悪くはない、という程度の反応の人です。
どうしてこのような差が出るかは、自分には良く分かりません。
ひとつには、普段聞いている音楽と聞き方の差によるのだと思います。 電子楽器中心のソースでは、通常品と比較しても差が分からない場合が多いと思います。 電子楽器には、口に近接して使用するマイクロホンも含んでも良いかもしれません。
アコースティックな録音を聴くと、自分には大きな差を感じます。 最も大きな差を感じるのはパイプオルガンです。パイプオルガンは、正弦波とその倍音の組合せに近いのですが、 普通のフルレンジユニットを使ったシステムで聴くと、歪が気になるのに対し、Feastrexのスピーカーユニットで聴くと、 生の雰囲気がそのまま再現されます。極端な言い方をすると、別な音楽に聴こえるほどの差があります。
しかし、ポップス系のソースでは、殆どメリットを感じません。 合唱やオーケストラでは、普通のフルレンジを使ったシステムとは大差を感じますが、振動板面積がモノを云うソースでは、 13センチフルレンジでは、さすがに苦しいと思います。

音を主観的に表現すると、高域の浸透力が極めて強い。 これは、歪が少いことを意味しているのではないかと思います。 少し離れても耳に食い込んでくる感じです。 それでいながら、嫌ではない自然な音で、音楽がゆっくりと克明に聴こえます。 Fostexのフルレンジシステムでは、耳が疲れるのが早く、大きな差を感じます。

Feastrexの上級機は、Feastrexの箱に入れたものをコイズミ無線で聞いたことがあります。 ローエンド機種と比べると高域の浸透力が更に強い感じでした。 自宅で聞いたらどんな感じなのか興味もありますが、あいにく自分は金持ちではありません。

自分のシステムやFeastrexの試聴で感じたことは、特にシビアなソースを聴くと、振動板背面の音が振動板を通って聴こえるので、 何らかの吸音処理が必要と思います。 電子音や近接マイク録音のボーカルだったら吸音処理は無いほうが良いかもしれません。 Feastrexでは、吸音材を使わないので、自分とは聴くソースや聞き方が全く違うのではないかと思います。

エンクロージャについては、組合せが難解です。
Feastrexの大型標準箱では、共振点付近での癖が強いので、紙箱吸音法を利用したほうが良いと感じました。
コイズミ無線で聞いた共鳴管は、少し癖が耳に付きました。多重共鳴管のほうが良いと思います。
田中式バックロードホーンは、アルニコ磁石型のユニットの組合せをオーディオショーで聞きましたが、 組み合わせていたOTLアンプが弱く、評価出来ませんでした。 電源のしっかりした半導体アンプを使えば悪くないのではないかと思います。
自分が使用している多自由度バスレフの箱は、自画自賛ですが相性は良いと思います。

結論として、この難解なユニットが適合するのは下記のような場合だと思います。

  1. アコースティックな録音を多く聴く
  2. オーディオよりも音楽マニアである
  3. (PAを使わない)生の音を聴く機会が多い
  4. ゆったり、ゆっくり音楽を聴きたい
  5. 設計や工作マニアではない(何度も作りなおす人には向かない。自分にも向かない。)
  6. お金に困っていない(と云うより有り余っている位か?→これも自分には向いていない。)
それで、この会社の製品が買得かどうか、敢えて評価すると、上記の6項目を全て満たすならば、買得でしょう。 コスト/パフォーマンス比が最も高いのは、励磁型のローエンドモデルと思います。 さすがに何百万円のモデルを導入するには、お金持ちでも勇気が必要でしょう。

Feastrexのスピーカーユニットを導入して良かったことは、中途半端な投資をしなくなったことです。 励磁のローエンドモデルではありますが、NF-5Exを買ってから、Fostexの限定品は欲しくなくなりました。 導入には50万円位かりましたが、そのうち投資効果が現れてくるのではないかと思います。

こういうメーカーがあっても良いと思います。

(写真)左から Feastrex製 D-5E TypeII、NF-5Ex

電線病

少しまとまった時間ができたので、部屋の整理を始めました。
自宅は都内の集合住宅で、広いとは云えないので、思い切って不要なものを廃棄することから始めました。

整理を始めてみると不要なものがざくざく出て来ました。不要なもので多かったのは、以下のものです。

  1. PC関連パーツ。SCSI等の旧規格の基板、遅いネットワーク基板、遅いルータ、遅い無線LAN、PC切替器、 フロッピディスクドライブ、ケーブル等大きなゴミ袋に3つ分位。
  2. オーディオ関連パーツ。殆ど全てがケーブルで、これは大きなゴミ袋4つ分位。

両方に共通するのはケーブルで、PC関連では70%、オーディオ関連では99%がケーブルでした。

ケーブルは、何をやるにも必需品で、無ければ何も出来ません。邪魔だが何か可愛い小物でもあります。

PC関連で多かったのは、今では殆ど使わなくなったIDEケーブル、SCSIケーブル、PC切替器のケーブル(これが異常に多い)、 長いパラレルケーブル(そう言えば昔、プリンタを離れたところに置いたことがあったっけ...)、そして、電源ケーブルです。 電源ケーブルは、未使用品がザクザク出てきました。 何か買い換える度に付いてくるのに古いものを捨てなかったので、新品が残ったのです。

オーディオ関連で多かったケーブルは、RCAピンコード。こ れは、機器に付属するへなへなの細いコードの他、5C2Vで自作したもの、3C2Vで自作したもの、スピーカーケーブル (正しく云えば電源コード)をそのまま使ったり、三つ編み四つ編みにしたもの、グラウンドを外に出したもの等(当然自作品) 様々でした。 義父から譲り受けた、長すぎて使えないバランスケーブルも大量に出てきました。

物量として多いのは、スピーカーケーブルで、自分で三つ編み、四つ編みにしたもの、 1000〜2000円/m位の中途半端な価格帯のケーブル、アメリカのRadio Shackで買ったモンスターケーブルや似たような極太ケーブル、 他には、長岡先生ご推薦のVCTケーブル等我ながら呆れました。

ケーブルを変えると音が変わるという伝説を信じ、どうにかしてコスト最小かつ効果最大を実現しようと実験したものが 大量のゴミになっています。 やっていた当時は、それなりに変わったと納得していたのですが、時間を置いて振り返ると本当に差があったのかどうか 判別する自信が無くなっていました。 そして、今では、何も考えずに、安くて使いやすいもの、そしてなるべく細いものを最短距離で使うようになりました。 音が変わったかどうかの検証もしていません。

何が自分を変えたのでしょうか?
一番大きな理由は、アンプに手を出すようになったことではないかと思います。 アンプを設計する程の知識はありませんが、今のパワーICは、夫々の足に、指定のキャパシタ、抵抗を繋いでゆくだけです。 これをキットにしたものが入手できるので、自分でも何とかなります。 それに電源の整流回路位は理解出来ます。 そんな訳で、自作と云うにはおこがましいが、自分用のものを製造するようになると、信号の経路が目で見えるようになります。

実際の半導体アンプの中身は、パワーICの他は、電源部(トランスと整流回路)、抵抗、電解コンデンサ程度で出来ています。 電解コンデンサは、動作が理想通りとはいかないので、これを変えると音が変わります。 抵抗なんて、ニクロム線がコイルのようにぐるぐる巻かれたものを外から固めたものです。ツィータのローカットキャパシタは 1個何千円もするのに、アンプの中は電解コンデンサの塊です。 しかも、基板の銅箔は薄くて、内部の配線は極細です。 メーカー製品に至っては、メンテナンスしやすいようにソケット付きのケーブルで繋いだりしています。 こんな状態でも自分は音はちっとも悪くないように感じます。 こう見ていくと、機器を接続するケーブルを変えても、全体には殆ど影響しないと考えたほうが合理的であると思います。

という理由で、自分は電線病から回復しつつあるようです。

オカルトオーディオ

オカルトという用語は、論敵にインチキのレッテルを貼るために使われてきた用語のようです。

オーディオでオカルトと呼ばれるものは多いと思います。 大抵は、簡単に実証できる程度のインチキですが、信じてしまう人も少くありません。 振り込め詐欺のようなインチキに引っかかってしまう人は多い (『多い』というのは人によって定義の異る曖昧な用語なので良くないのですが、 現実に被害が起きているのであえて定性的な用語を使用しています)。

詐欺の場合には、理論の完全性は必要なく、また、全員を騙す必要はないので、 騙される人だけを騙せば詐欺業が成り立つようになっています。

オカルトオーディオは、詐欺のような詐欺でないようなグレーゾーンなのかもしれません。 詐欺と違うのは、売った側が目的物を引き渡すことと、買った側が満足するか、 満足しなくても不服を申し立てないということだと思います。 しかし、実際には物理的な効果が全く乃至は殆どないものを効果があると称して売るのはいかがなものかと思います。

オーディオ産業にオカルト商法が成り立つ理由は、以下の通りと思います。

(1) 音は、時間と空間を必要とし、時間と共に消えてしまうので、技術的評価方法が確立されていない。
(2) 心理的要因により同じものでも違って聞こえる、いわゆる錯覚がある。
(3) 人間には所有欲がある。効果がなくても持っているだけで満足感を得られる場合は少くない。
(4) 物理学を理解しようとしない人が存在する。

自分がオカルトと思うものを具体的に列挙すると問題が発生しかねないので、抽象的に書きます。

例えば電気の流れ。電流は、単純にオームの法則で決まるので、抵抗値、インピーダンス値が決まれば自動的に定まります。 抵抗値を下げる効果があるといっても、十分の一オーム程度の話であれば、温度が数度変わったのと等価です。 ナントカ処理などいろいろと理屈を付けられても、良く聞けばどうでもいいような理論だったりします。

電線に高純度銀を使ったりすれば、それなりにコストがかかるし、気分的にも良いので、否定はしませんが、 それも価格によるでしょう。 1mが何十万円とか云われると、尻込みしてしまいます。 自分の場合は、1m300円位が限界でしょう。

電源ケーブルは、規格で決まっているので、有名電線メーカーのJIS規格品が安心です。 オーディオの場合は、余程の高級パワーアンプを使わない限り、1.25SQでも電流許容値は12A程度で十分な余裕があります。 VCTF規格のものでも耐圧は300Vあるので問題はありません。 規格品には、心線にタフピッチ銅(純度99.9%いわゆる3N程度)を使っています。 これに6N、7Nといった超高純度銅を使ったらどうなるでしょうか?
コストは跳ね上がりますが...さて...

アンプ等を自作する人は、こういう差に鈍感です。 電流を上流から下流まで辿っていくと、ボトルネックがあるからです。 ボトルネックの最たるものに、接点とか、ヴォイスコイルがあります。 基板を使う場合には、薄い銅箔がボトルネックになります。 半田付もボトルネックと云って良いものです。 自作する人はこういうものを見ているので、外から見える電線の差はどうでも良いのです。

お金を使わずに幸せになれる人は、オカルトオーディオとは無縁でいられます。 お金を使うことで幸せになる人は、オカルトオーディオに投資しても良いのかもしれません。

一気に頂上を目指す

自分のオーディオ趣味も長くなったもので、もうあと何年かで40年になろうとしています。
最初の頃は、ハイエンドオーディなんて知りませんでしたた。小遣いにも限りがあるので、年に十数枚レコードを買うと無くなっていました。 だから、1,300円の廉価版はとても有難いものでした。 とっくに廃刊になったFMレコパルとかを読みながら、10万円以上もする高級機を羨ましく眺めていました。

しかし、オーディオ機器も上を目指すときりがないことが段々と分かってきたので、最初は少しずつアップグレードしていたのが、 段々不規則な買い替えになってきました。 更に、生を多く経験し、自作に手を出すようになると、超高級機には興味が全く無くなってしまいました。 自分の周りのオーディオ仲間には、自分の世界があるので、そこから別な方向を目指す姿は見ません。

最近になってPhilewebのコミュニティサイトを見ると、若い人が高級機に投資していたりして、複雑な気分になります。 かつては年功序列で、年を重ねないと貧乏なのが一般的でしたが、最近は、若い人が金持ちと貧乏に二極化してしまったようで、 裕福な人は、何の抵抗もなく100万円位出してしまうようです。

お金を持って一気に頂点を目指すところからオーディオ趣味を始めてしまうとどうなるのでしょうか? そのまま高収入が続けば、数百万から始めて、数千万、数億となってゆくでしょうが、続かなかったときは、『失敗した!』 と思うのでしょうか? 超高級機を中古市場に出しても売値は厳しいでしょう。

自分は、オーディオ趣味にはエリートコースが無いのではないかと思います。 投資した分だけ満足度が上がる趣味とは思えません。 ローコストから始めて、工夫して、ソフトをたくさん聞いて、生を聴いて、他の人のシステムを聴いて... と繰り返してゆくと自分の世界観が出来てきます。 世界観が出来たときに、はじめて、大きな投資をする価値が生まれるのではないかと思います。

ハイエンドオーディオを持っている人が、前回の研究会でやったように、普及価格帯のアンプで、松さんのASURAを聞いたりしたら、 ぶっ飛んでしまうかもしれません。

オーディオ趣味の世界観が出来ないうちにハイエンドに走ると、いきなり頂上に着いてしまい、やることがなくなってしまいそうです。 頂上に着いてたところで終わるのが趣味ではないかと思います。 逆に云えば、上がっていくところは楽しめるが、上がってしまうと楽しめなくなるということです。 長岡先生の名言に、『手段が目的になるのが趣味である』というのがあります。 いきなり頂上を目指すと、改善するというプロセスを楽しむことはできません。

自分の不完全なシステムをどう楽しむか、これが出来れば、あまり大掛かりな投資なしで、プロセスを楽しめるのではないでしょうか。

オカルトオーディオ その2

前回オカルトオーディオのことを書いたらフィードバックを頂きました。

人を幸せにするオカルトオーディオはおおいに結構!

自分もそう思います。ボッタクリではなく、何かしらの効果の説明が可能で、かつ、プラシーボ効果が高いものだったら、 その人には良いと思います。 人を幸せにするのには賛成です。

メーカーとして気を付けなければいけないのは、本当はオカルトではないのに、オカルトに見えてしまう広告だと思います。 オカルトに見えてしまう条件は、

(1) 実態の伴わないイメージ広告
(2) 定性的な説明だけで、定量的な説明がない
(3) 理論がデタラメか、理解していないことが明らかに分かる
(4) 音が良いと殊更強調する
(5) この良さを知らない人は可哀想だ(という印象を付ける)

といったところでしょうか?

(3)に該当するものに手を出すと、他人からバカにされそうで少し怖いです。
(4)、(5)は最も嫌いで、アレルギー症状があります。
現状の評価技術では、音の良さを証明するのは難しいと思っています。 出来るのは、精々音が現実に近付くであろう効果の定性的な説明くらいで、音が良いという極めて主観的な主張をするのはどうかと思います。 音がいいか悪いかという主観的な評価は、あくまでも、投資する側が決めることであって、 マーケティングに主観を持ち込まれてしまうと、ある種の怪しさを感じてしまいます。

個人的には、ユーザーひとりひとりが物理学(というほどではないく中学、高校の理科の範囲で十分)を顧みながら楽しめば、 残るオカルトは幸せなものばかりになるかなと思います。

最もオカルトっぽくないのは、日本の有名ブランドのローエンド品だと思います。 どれも、『この価格で売って良いのか?』と思うものばかりです。 使いこなせば相当なパフォーマンスを出すでしょう。

ローコストアンプ

自分のブログでローコストアンプが欲しいと書いたら反響を頂きました。
ローコストアンプが欲しいと思うようになったきっかけは、Phile-webを読んでいて、ブランド志向、 高価格志向が強いと感じたことによるアンチテーゼ、そして、スピーカー再生技術研究会のオフ会には、 プリメインアンプが便利と考えていることです。

2011年のオフ会では、マランツのPM7004(定価63,000円)というプリメインアンプを使用して、そのパフォーマンスに驚いたし、 同様な意見が複数聞かれました。 しかし、いろいろなユーザーが集まっているPhile-webでは、ブランド志向、高級品志向が強く、入門機を使っているユーザーは、 高級機が欲しくてたまらない。 舶来品のセパレートを使いたい、という人が多いように見えます。 自分はへそ曲がりなので、そういう誘導された価値観には付き合いたくない、ということで、 いずれローコストアンプを導入しようと思っています。

何故ローコストアンプなのか。それは単に自分がへそ曲がりなだけでなく、理由があります。

(1) 自分で作るより安い

ローコストアンプは、大量生産が前提であり、部品を大量購入するので、パーツ等の原価が相当に低く抑えられるはずです。 実際の仕入れ値は知りませんが、例えば、片チャンネル50W出力のステレオアンプを作ろうとすると、電源トランスには少くとも、 2倍以上の容量のトランスが必要です。 ノグチトランスの2回路で出力電圧24V、電流10A(240VA)のトランスPM-2410は、9,810円します。 整流回路は自分で作っても簡単ですが、部品代は結構高価です。これをキット化したものが手に入るので、選定すると、 ユニエル電子のVR-805という最大電流5Aのもので価格は6,090円です。両チャンネル分では余裕が少いので、 左右分けて使うとこれが2個必要になります。 パワーアンプも手抜きしてユニエルのキットを購入すると、定格40W、最大40WのPAS-070が片チャンネルで4,410円。 以上に加えて、ケースが5,000円位、放熱器が3,000円位を2個、端子、ヴォリウム、配線、電源ケーブル、プラグ、フューズボックス、 スイッチ、LED等を加えて4,000円位でしょうか。 以上はパワーアンプの部分だけで、プリアンプが入っていません。
プリアンプ抜きでの以上の単純合計は、45,810円です。 ユニエルのアンプは自分でも使っており、好みなので、人にお勧めできるとは思いますが、コストは決して低くありません。
ところが、ローコストプリメインアンプの市場価格を見ると同等以上のスペックのものでも23,000円位からあります。 プリアンプも含んだ価格であり、コストのうえでは太刀打ち出来ません。

(2) 高級機とローコスト機とではコスト構造が違う

高級機は、大出力に対応するために、余裕のある電源を持っています。 だから、出力インピーダンスの反比例に近い出力が得られます。 トランスなどの電源部品は非常に高価であるうえに、レギュレーションの良い特注トランスを使うので、 この部分のコストが相当に高いはずです。
高級機を試聴しないで買う人は少いでしょう。 このためメーカー試聴室や販売店に試聴室を設ける必要があります。 試聴室ではローコスト機も聞けるようになっている場合がありますが、これは、 高級機を聴かせるついでに止むなく聞かせているはずです。 云わば、こうした販売経費は、ローコスト機や中級機の分も高級機が負担していると考えらます。
ローコスト機は大量生産のため、部品の調達金額を抑えられますが、高級機は、スケールメリットが少なく、コスト高になります。
高級機は、宣伝費が高いと思います。評論家の記事も広告だし、専用のカタログも作っています。 カタログのコストは意外に高いのです。
高級機はアフターサービスが重要です。 有償修理であっても固定費を考慮すれば元は取れません。 ローコスト機は、修理代のほうが高くなるので、保証期間を過ぎたら態々修理しない人も多いと思います。 修理の人件費は、高級機でも普及機でも差がないのです。 アフターサービスの経費は高級機のためにあり、そのコストの大部分は高級機の販売価格に上乗せされていると考えられます。

(3) ローコスト機は実際に良い

ローコスト機であっても、左右の回路を分けたりして、高級機に遜色ない構成のものもあります。 端子が金メッキになっていないなど、部品の違いはありますが、音に影響する部品ばかりではありません。 実際に、オフ会で使用したマランツのPM7004は、定価63,000円(実売は更に安いはず)ですが、 松さんのASURAを鳴らしたときには、自分も含めてまさにハイエンドの音だと思った人が相当数いました。
現に、ローコストアンプから100万円のアンプまで、音は変わらないという意見もあります。 例えば、以下のサイトでは、およそ5万円から100万円までのアンプを比較して、差がわからなかったそうです。

価格差のあるアンプ…真空管、セパレート、デジタル、AVアンプを自宅で聴き比べしてみました

自分は、高級機と普及機とでは、性能に差はあると考えていますが、通常使う範囲で差が聞き分けられるかどうかは分かりません。 しかし、差を感じた経験もあります。
かなり以前に、マランツのPM-80a(定価6万円位)という中低級プリメインアンプからアキュフェーズのP-350(定価30万円) というパワーアンプに変え、自作のバックロードホーンを鳴らしたときには、価格相応の差を感じました。 また、この古いP-350と、ユニエルのPA-036(販売完了)を使ったコスト5万円位のアンプを比較すると、 後者のほうが良く聞こえます。 このような経験から、アンプには差があるとは思います。 しかし、ブラインドテストではどうなのか、正直云って聞き分ける自信はありません。

自分では、アンプの差があると考えていながら、ローコストがいいと思う理由は、結局自分がケチだからでしょう。 また、コストの低いものを使いこなして上級のものと同等に活用できれば得したような気がします。 これもケチなせいでしょう。

こうした、オカルトオーディオとは対極にあるローコストアンプやローコストCDプレーヤーを使ったローコスト会も 企画してみたいと思っています。 さて、差は分かるのでしょうか?

ブラインドテスト

ブラインドテストとはどんなものだろうか。そんな思いを持っている人は多いのではないかと思います。
そういう思いを持った10人が集まって実際にアンプのブラインドテストを実施してみました。 スピーカー再生技術研究会の番外イベントで、『ガラパゴスの会』として会場を借りて頂くことができました。

テストを始める前は、二重盲検法を想定して期待を膨らませた方もおられたましたが、自分は、 方法とタイムスケジュールを考えてみて、かなり簡略化するのが限界だろうと思っていました。

実際に実施してみて初めて分かったことは、ブラインドテストの難しさです。 雑誌の記事などでは、ブラインドテストはせずに、見ながら切り替えて試聴します。 そしてある種の意図を持って結果を導き出すように読めなくもありません。 そして、結果は、皆が幸せになる方向に進みます。 過去にブラインドテストを実施して、高級機が悪い評価になったこともあるのですが、実際にテストをしてみて、 それがある意味当然のことなのだということが分かりました。 ブラインドテストは、セットアップが大変で、ウォーミングアップの状況も違います。 恐らく、この場合、ソース選びとアンプの音量合わせが不十分だったのだと考えられます。

ブラインドテストで最も難しいのは、条件を揃えることでした。 ソースが同じで、スピーカーが同じというところまでは簡単でした。 しかし、難しかったのは、音量を厳密に揃えること、そして、ウォーミングアップの条件を揃えることでした。 スピーカーには、Feastrexの励磁型を使ったので、遮音性能の良い部屋で、本調子になるまでには時間がかかりました。 いや、3時間位では本調子にはなっていなかったかもしれません。

再生音量は、聴感で合わせたのでは、同じになりません。 これは、人間の感覚の曖昧さを証明しています。 結局は、テストCDの正弦波を再生してアンプの出力側電圧をデジタルテスターで合わせたのですが、それでも、 最大3.5%の出力電力誤差が出てしまいました。

ウォーミングアップは更に大変で、定常状態に達したかどうかの判定ができません。 かつて、温度計付のアンプが売られていたりしましたが、持ち込んだアンプには付いていませんでした。 A級とAB級とでは、ウォーミングアップの速度がまるで違うのですが、 時間が十分にはとれなかったのでAB級動作の製品には厳しい評価になったと思います。

結果として、今回のテストだけでは評価は不可能と結論付けたのですが、もっと条件を揃えてゆけば、 更に衝撃的な結果になったのではないかと思います。

もっと面倒なのは、結果に対する外部からの批判です。実際にテストをしたことがない人は、いろいろと注文を付けたがります。 『それなら、そのようにテストして結果を公表してください』と云いたくなります。

結果はこちらを参照してください。
同じテストに参加して自ら被験者となった、音工房Zの大山さんのレポートは、下記から読むことができます。
アンプレポート


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管理人: 鈴木 茂

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